2015.04.04

「非常に演出にこだわっているのですが、肝心の構成に若干疑問を感じる回でした」

カウボーイビバップ 第20話道化師の鎮魂歌

絵コンテ・演出:武井良幸 / 脚本:村井さだゆき

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ある夜、スパイクはISSP高官の暗殺現場に遭遇する。何とかその場から逃げ出すことに成功するが、スパイクは暗殺犯に狙われる事になってしまう。そしてその男はマッドピエロと呼ばれる伝説の殺し屋・東風だった。

第20話の主要スタッフ。絵コンテ・演出は武井良幸。脚本・村井さだゆき。作画監督・小森高博。メカ作画監督・後藤雅巳。

以下は核心部分を含みます

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今回の「道化師の鎮魂歌」、サブタイトルは「Pierrot Le Fou」となっています。元ネタはジャン=リュック・ゴダールの「気狂いピエロ」です。上京したての頃、確か六本木の映画館にゴダールの特集を見に行った時の事だったと思います。この作品が「気狂いピエロ」ではなく「ピエロ・ル・フ」という邦題でポスターに載っていたのを覚えています。

知っている人も多いと思いますが、「気狂い」というのが差別用語にあたるとして、この邦題がいつの頃からか物議をかもす様になってしまいました。そのため雑誌等でも「ピエロ・ル・フ」と表記する出版社もあります。

個人的な事ですが、この「気狂い」を長い間「きぐるい」と読んでいました。そのため「きぐるいピエロは〜」などと映画好きの人に得意気に話をして、顔をしかめられたりしていました。その度僕は「昔からそういう邦題なんだから、これじゃ言葉狩りだ」などと、内心馬鹿にしていました。しかしある時知ったのです。「気狂い」は「きぐるい」と読まない事を。相手が顔をしかめていたのは、読み方が間違っていたからだったのです。それなのに得意気に話しをしていた自分がかなり恥ずかしいです。馬鹿は僕の方でした。

< 第20話に関して >

引き続き主人公はスパイクです。

そして第20話はストーリではなく演出を楽しむ回だと思います。個人的には結構好きな話です。しかし細かな設定がストーリーとして落とし込まれているのか、という疑問が残りました。

具体的に上げると、主人公であるスパイクは、負ける → 再挑戦 → 勝つ、という流れだけであり、東風も精神が後退していくという弱い変化があるのみです。そして何より「スパイク・東風の対決」「ジェットが東風を調べる」という二つの軸が強く交わらない点だと思います。そのため第二幕から第三幕への転換点が見当たらず、ずるずるとラストに流れていく印象を受けました。

しかし支離滅裂で物語が破綻している訳ではありません。そう考えると物語に何らかの軸はあると推測出来ます。そこで軸は何かと考えた時、やはり「オッドアイの猫」という事になるのではないでしょうか。唯一この「猫」という軸が、スパイクとジェットの物語をつなぐ物であり、また東風の敗北という物語の解決に結びつくものです。この全体をつらぬく軸の弱さ(弱いというより陰に隠れすぎている)が、上記の疑問となったのかもしれません。

主人公

「スパイク・スピーゲル」

ストーリー

「東風に狙われたスパイクは一度敗れるが、再度戦い東風を倒す」

分岐点と概略

第一幕概略 「スパイクが東風に狙われる」
第二幕への転換点(6m00s) 「スパイクが逃げ切る」
第二幕前半概略 「東風からの招待状」
中間点(12m00s) 「スペースランドに到着」
第二幕後半概略 「東風と再度対決」
第三幕への転換点 ?(見当たらない?)
第三幕概略 「東風を倒す」

第20話を分解

カウボーイビバップ 第20話 パラダイム

1.ビリヤード場の看板
スパイクがビリヤードを終え外に出てくる時、店のネオン看板のカットが入ります。店名は「C’est la vie = セラヴィ」、この台詞もゴダールの「気狂いピエロ」に登場します。意味は「これが人生さ」といった感じの、ネガティブな慣用句?です。ただ一般的な言葉なので、フランス映画では時々見かけたりします。

そしてその上に「ACADEMIE DE BILLARD」とあります。これは直訳すると「ビリヤードの学校」となるのですが、実際はプロのハスラーから講習を受ける事が出来るビリヤード場、といった緩やかな意味との事だそうです。(これに関しては、人に聞きた情報で確認はとっていません)

2.ボブ「毎回同じ事いってねーか」
ここはどこか?ビバップ号が停泊している場所から考えると、火星である事は間違いないと思います。それではなぜボブが火星にいたのか?個人的に引っかかったので流れを振り返ります。

ボブはジェットの警官時代からの知り合いであり、情報をくれる存在です。しかしこれまでの登場は第5話のトィンクルの時のみ。ドネリーなどガニメデがらみの情報が多いため混同してしまいますが、ボブはガニメデ警察の人間ではなくISSPの警官です。ISSPは太陽系刑事警察機構(英訳のInter Solar Systems Pol は今話でもエドハッキング時の画面に表示されます)です。つまり管轄はガニメデのみという事ではありません。また第5話で登場した際ボブは制服姿でしたが、今話そして劇場版で登場した際はスーツ姿でした。そう考えると、ボブは第5話から第20話の間に火星に移り、内勤の刑事になったのではないでしょうか。そう考えると第5話でボブがガニメデにいた、そして今回は火星にいた、という事を説明出来るかと思います。

3.ボブ「奴こそ幻の殺し屋、東風」
今回登場する「東風」。これもゴダールが参加したジガ・ヴェルトフ集団が作った映画のタイトルから取ったと思われます。しかし「マッドピエロ」「東風」とあるためYMOの曲名から取った可能性も残ります。ただYMOの曲名もゴダールから取っているため、元ネタはゴダールでいいのかもしれません。

4.「ISSP暗殺能力向上実験、被験体カルテナンバー46、コードネーム東風」
この時、東風に行われていた実験内容。気になった部分を二箇所拾っておきます。まず実験を行う際のモニター。この画面には三つの遺伝子配列が表示されており、中央と左の配列下にclone G、clone Jと書かれています。そして少し後で卵細胞に何かを注入するカットが入ります。ここから推測するに、(理論的な話はさておき)ISSPの実験内容はDNA操作によって強化人間をつくるといった内容ではないでしょうか。ちなみにこの時の遺伝子配列の画面上部には、被験体である東風の名前・セクション13・カルテナンバー46といった記載があります。

そしてもう一つ、東風に銃を射出する実験。その際に東風は何かの管につながれてはいますが、特殊な装備をしている訳ではないように見えます。その事から考えると、現在の東風も弾をはじく装備をしているのではなく、生身の状態で弾丸を寄せ付けなくなっていると推測されます。

5.スパイク「いや、もう、もういんだ」
そして「もう終わったことだ」と続き第20話は幕を閉じます。ジェットの調べた事が全く関係せずに東風は自滅してしまいます。猫のオッドアイが展開のきっかけになっているため、無意味だとまでは言いませんが、ストーリー展開としてはどうなのかという疑問は残りました。
 

スパイクとフェイのやりとり

第20話中で、スパイクとフェイは何度か意味ありげな会話をします。その部分が、今話内で完結している内容なのか、全体を通して意味のある会話なのか考えて見たいと思います。関係するのは三箇所。順を追って見ていきます。

A.ミカンに手をのばすスパイク
まずこの部分。この後、フェイは「いたいた、噂のミイラ男」と言ってスパイクの所にやってきます。この時フェイはスパイクの事が心配で、様子を見に来たという事で間違いないと思います。それではスパイクはどういった気持ちだったのか。この時のスパイクの台詞が聞き取れれば、その辺も推測できそうです。

まずスパイクの一言目の台詞は「ミカン食いてーな」と聞き取れるような気がします。そして二言目は聞き取れず。フェイがミカンを食べている時の三言目が「××××サイテー」と言っているような気がします。アドリブなのか現場指示なのか、はたまた僕の聞き間違いなのか何とも言えませんが、たぶんこの時のスパイクは、そのままミカンが食いたいという気持ちだったと思われます。しかしこの台詞、(聞き取れない状態でいうのもなんですが)スパイクのキャラクターを考えた時、こんな言い回しはしないだろうという思いが強いです。

B.スパイク「なーんて言ったら、助けに来てくれるのかな」
スパイクが東風からの挑戦を受けるという事は、やられた借りは必ず返すという性格から理解出来ます。しかしその後、スパイクはなぜ上記のような台詞を言ったのか。A部分の、フェイ「あたしには関係ないけど」を受けての台詞だという事は分かります。しかしC部分から考えると、本当に助けに来て欲しかった訳ではなく、フェイの軽口に対して軽口で返したというのが答えではないでしょうか。

C.スパイク「余計な真似を」
スパイクは「助けに来てくれるのかな」と言っておきながら、フェイが助けに来た事に対し上記のような台詞を吐きます。単純に考えれば二人は仲間だ、という話の流れとも考えられます。しかしスパイクの設定を考えれば、ここは額面通り「余計な真似」と考えていたのではないでしょうか。スパイクは自分の落とし前は自分でつけると思っているはずです。

しかしフェイにとってはどうだったのか?賞金の絡まない話でフェイが自発的に現場に向かったのは、第20話が初めてです。唯一自分の居場所となり得る、そして自分を知るビバップ号のメンバーを仲間だと思い、スパイクを助けに来たのではないでしょうか。

まとめ
そう考えた時、今話のフェイの軽口は照れ隠しからであり、スパイクの軽口は特に意味のないいつものやりとりと考えられます。このビバップ号メンバーに対する思いのズレこそが、そのまま最終話の二人の会話へと結びつくのではないでしょうか。

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「カウボーイビバップ」各話の考察