「今回の主人公は誰なのか?そしてストーリーの軸は?後いつものなんちゃって用語解説」
カウボーイビバップ 第23話ブレイン・スクラッチ
絵コンテ・演出:武井良幸 / 脚本:佐藤大
ネット上に存在する謎の宗教団体スクラッチ。その教祖ロンデスに3800万の賞金がかけられる。スパイクたちはロンデスを探すが手がかりをつかむことが出来ない。その時、抜け駆けをしたフェイから連絡があり……
第23話の主要スタッフ。絵コンテと演出は武井良幸。脚本・佐藤大。作画監督・竹内浩志。メカ作画監督・後藤雅巳。
以下は核心部分を含みます
放送はまだインターネットの黎明期、オウム真理教を連想させる宗教の話かと思わせて、実はテレビの話です。下記はメディア文化論みたいな物ではなく、実際に感じていた時代の空気感からの思い出話です。
1990年代後半もまだテレビの時代だったと思いますが、傲慢さも目立ち独善的な内容に疑問を感じたりもしていました。そのためテレビから流れるヒットチャートや画一的な流行に反発し、意識の高い人たちと一緒にサブカルチャーに走っていたような気がします。言い換えればサブカル誌に踊らされていた訳です。そんな時代に見たこの「ブレイン・スクラッチ」は、かなりインパクトを持っている話であり、僕の中でカウボーイビバップの評価を決定づけた回だったと思います。ただこの話を今見返しても、当時の感覚はあまりよみがえってはきません。それは、すでに「神は死んだ」からではないでしょうか。
個人的には一二を争うほど好きな話なのですが、あいかわらず用語解説が中心になると思います。
< 第23話に関して >
今回の主人公は誰なのか?ビバップ号のメンバー全員に見せ場があり、各々がストーリーに絡んでくるため、ビバップ号のメンバーとも考えられます。しかし単純に考えた場合、ロンデスの事件に対して行動を起こしているのは、スパイクとジェットの二人で、前半はスパイク中心、後半はジェット中心という構成です。そう考えると主人公はスパイクとジェットの二人という形になります。ストーリーは「賞金首のロンデスを、スパイクとジェットが探し出し、そのデータを消す」です。問題はないのですが、賞金を稼ぎに行ったのにデータを消して終わりという流れでは、どこかフワッとした感じがしてしまいます。
そこで別案。スパイクを主人公と考え、下記のようにまとめました。
主人公
「スパイク・スピーゲル」
ストーリー
「賞金首のロンデスを追っていたスパイクが、フェイの危機を知りフェイを助け出す」
分岐点と概略
第一幕概略 | 「ロンデスとスクラッチの情報」 |
---|---|
第二幕への転換点(5m30s) | 「ロンデスの指名手配を知る」 |
第二幕前半概略 | 「ロンデスを探すが見つからない」 |
中間点(11m40s) | 「抜け駆けをしていたフェイからSOSがある」 |
第二幕後半概略 | 「スパイクがロンデスの所に向かう」 |
第三幕への転換点(17m00s) | 「フェイを見つける」 |
第三幕概略 | 「フェイを助け出す」 |
補足。第一幕でのスパイクの劇的欲求は「賞金を稼ぐ」ことです。そして第二幕への転換点を受け、賞金を稼ぐために「ロンデスを追う」という具体的な行動になります。そして問題の中間点。このフェイからの連絡によって、スパイクの劇的欲求が「フェイを助ける」と変化し、物語の方向性が変わったのではないでしょうか?
つまり第23話は、賞金首ロンデスを追うということではなく、ビバップ号メンバーの関係性がどういった物なのか、ということが軸になっていると考えられます。別案もかなりフワッとしていますが、以上です。
第23話を分解
1.ロンデス「肉体とは何か?」
神秘主義的な雰囲気を出すために使われている、ピラミッドと三角形、そして目。この辺はフリーメイソンをもとにしたイメージ引用だと思われます。
まず目。いわゆる「プロビデンスの目」です。プロビデンス(Providence)は「キリスト教の神意・摂理」といた意味になります。昔は「ヤーベの目(もしくはそのまま神の目)」などと表記されていたような記憶があります。当然ながら神様はエブラハムの神様ですので一神教です。そのため、今回登場したように同時にたくさんの目が描かれることはありません。
次に三角形。キリスト教の三位一体を表した図です。もう少しかみ砕くと、神様には御父、御子、聖霊の三つの位格が存在し、この図は「三つの位格が共存する一人の神様」ということを表しています。ちなみにユダヤ教(イスラム教も)は三位一体という考え方を認めていませんので、三角形と目のマークを見てユダヤの陰謀という言説は理論的に難しいような気がします。
そしてこの少し前、ピラミッドと目が同時に登場します。いわゆる「ピラミッドの目」は、よくフリーメイソンのマークのように言われますが、フランシス・ホプキンソンが考えたアメリカの国章(アメリカの国章では上が欠けている未完成のピラミッド)です。この未完成のピラミッドは、強さと忍耐力をもってこれからより良い国を作っていくぞ、という意気込みを表しています。そしてアメリカ建国の精神はキリスト教が土台になっているため、ピラミッドの上に「神の目」が描かれている訳です。
またスクラッチのロゴが「A」を強調した作りになっていて、これがフリーメイソンのコンパスと定規を連想させるようなデザインになっています。このコンパスと定規のデザインはフリーメイソンのロゴで、石工組合だった時の職人が使う道具が元になっています。
2.画面に映し出されるスクラッチのアドレス
スクラッチの広告動画の最後に「ssw.scratch.ts.mr」というアドレスが映し出されます。インターネット黎明期にもかかわらず、よく考えられていると思ったので抜き出してみます。
現在、私たちが使っている形にすれば「www. scratch. co.jp」となるかと思います。頭についているwwwはWorld Wide Webの略、直訳すれば世界中のWebといった感じです。それに対して今回表示されたアドレスの頭はssw。推測ですがSolar System Web(太陽系のWeb)の略ではないでしょうか。そして末尾のmrは火星、Marsの略と考えられます。
ただし問題なのが.tsの部分。これが何の略なのかは分かりません。作中に頭文字をTSと略せる(MEDICAL) TARMINAL SYSTEM、という病院の管理システムが登場します。安直にtsはTARMINAL SYSTEMの略で未来に登場する属性型MRドメインかも知れません。もしかすると名行政地域区分型のMRドメインかもしれませんし、全く意味のない文字列かもしれません。
★.テレビの中でテレビ画面を使った演出
第一幕の状況説明がテレビ画面のザッピングで構成されています。何が写っているのか、本筋とは関係ない部分もふくめ後述します。
3.パンチ「長らくご愛顧いただいたこの番組、突然だけど今回で最終回なんだ」
低視聴率のためビッグショットが打ち切りになります。今回の話とは全く関係がありませんが、このことから劇場版の時期がこれ以前の出来事だということが分かります。
もう一つ、揚げ足取りのような考察。実際に犯罪者に賞金をかけなければならない事態になるということは、警察の人出が足りない=予算が足りない、という状況だと思います。そして、警察の人件費>賞金をかける経費、というメリットがあるからこそ賞金稼ぎに頼っている訳です。そう考えた時に、犯罪者情報をあつかう番組には、公的機関がスポンサーにつく(もしくは補助金を入れる)ような気がしますので、低視聴率で打ち切られることはないような気もするのですが……
ただし似たような番組が他にもあれば、低視聴率の方を打ち切るということは考えられるかと思います。日本でも会計検査院が経済的・効率的の観点から事業の打ち切りを勧告してきたりもしますので。
4.スパイク「高周波だって?」
高周波に「交感神経を麻痺させる何かの細工があるらしい」とジェットが説明します。ジェットが「よく分からんが」と言っている通り、技術的な仕組みはよく分かりませんが用語を拾っておきます。
まず高周波。周波数の高いやつです。医療器具などでも低周波・高周波はよく耳にします。低周波は皮膚の浅い部分にしか通電できませんが、高周波はより深い部分にまで通電させることが出来る、みたいな感じだったと思います。具体例を上げると、低周波は肩こりなどのマッサージ器、高周波は筋肉を鍛えたりする機器に使われていると記憶しています。今回はその高周波が、脳に使われていたという訳です。
そして交感神経。いつものなんちゃって解説です。交感神経と副交感神経を合わせて自律神経と言います。このバランスが崩れると自律神経失調症やうつ病となってしまいます。またパーキンソン病では血管の収縮を調節する交感神経の働きが弱くなるため、脳の血液循環量が減少して、血圧の低下がおこります。ジェットが気を失いそうになったのも、交感神経が麻痺してきたために起こった、血圧の低下による失神ということではないでしょうか。
5.ジェット「ALLES VALLEY HOSPICE」
「ALLES VALLEY」。〇〇渓谷といった形で現実の火星にも地名があります。ちょっと気になったので確認しましたが、ALLES VALLEYという地名は存在しませんでした。なお、この時の画面に病院の住所が表示されています。住所は下記のようになっています。
21-3 Baker Street Section 27
Area DC Colony 13 Mars
大した情報ではないのですが、ここから火星に入植した人類は、コロニー単位で都市を作っているということが推測出来ます。
6.スパイク「まぼろしなんかじゃ役不足だ」ロンデス「その通り」
個人的に意味か分からなかったので抜き出します。
まず誤用が多い役不足。本人の力量に対して役目が軽すぎるという意味です。このシーンでは「まぼろしでは相手にならない、本人が出てこい」といったニュアンスになるかと思います。ここまでは問題ありません。そしてこの後の台詞。ロンデスの「その通り」という返し。何度か見てやっと理解出来たのですが、役不足に対して「その通り」と返したのではなく、まぼろしに対して「その通り」と答えたことに気づきました。理解出来ました。
テレビの中でテレビ画面を使った演出
この一連の演出で、ロンデスという教祖が率いるスクラッチという団体が世間を騒がせていること、そのスクラッチが主張していること、ブレインドリームという脳波コントローラーが存在すること、そしてフェイがスクラッチ信者になっているということ、語られるべき状況設定を洗脳させるかのように一気にたたみかけてきます。
とりあえずここでは、その他どうでもいい部分を順番に拾っていきます。
CBC
まず最初に登場するテレビ局はCBC、正式名称はCosmic Broadcasting Communityとなっています。実在のBBC(British Broadcasting Corporation)やABC(American Broadcasting Company)と異なり、最後のCはCommunityの略となっています。想像ですが実在の会社が存在すると面倒なため、CorporationやCompanyを避けたのではないでしょうか。
Insane Order SCRATCH
仰々しい音楽に合わせ表示されるテロップ。「Insane」は「狂気の」という意味の形容詞。その後の「Order」ですが、ここでは「団体・結社」という意味ではないでしょうか。直訳すれば「狂気の団体 スクラッチ」となります。
アナウンサー「さて教授、ロンデス教祖は元ドクターということですが〜」
ロンデスが提唱していることは理論的に可能かどうか、デイビッド・レビンソンという教授が答えます。この教授は何者なのか?画面下に名前と肩書が出ます。そこには、
Dr.David Levinsonn
Professor of Mars University school of Medicine
dept. of neurosurgery
とあります。そのまま訳せば、火星総合大学医学部神経外科の教授となります。
相談者「それで、もう二週間も帰って来ないんです」
みのもんたのおもいっきりテレビ風の番組。後半、画面下にテロップが流れています。文章は「There is a nice present show in the last of this program. Don’t change this channel.」となっています。訳せば「素敵なプレゼントが番組の最後にあるよ。チャンネルはそのまま」といった感じです。ちなみに「おもいっきりテレビ」は、カウボーイビバップ放送時にはまだ終了しておりません。
デイビッド・ブレイクリー「パワーCDJを紹介するよ」
テレホンショッピング。この時、宣伝商品を使っている女性の肩書がCosmic Fitness Champion(宇宙フィットネスチャンピオン)となっています。前出のCBCもそうですが「space」ではなく「cosmic」が使われています。この「cosmic / cosmos」はギリシャ語で配列・秩序といった意味で、spaceと同じように宇宙を意味しますが、正確には「秩序だった宇宙」というニュアンスになります。宇宙が混沌ではなく、秩序だった法則にのっとっているというギリシャ哲学が元になっています。
SFの世界では、政府と法があり統治されている宇宙を「cosmos」と定義し、spaceと分けて使った方が、設定としてしっかりしているような印象を受けます。
追加で用語拾い。商品説明の時にBPMという単語が登場します。これはBeats Per Minute(一分間の拍数)の略で、音楽の速度を表す言葉です。
フェイ「〜借金まみれの生活に疲れて〜(略)〜体がなくなればお金もいらないんです」
初見時はフェイが本当に入信したと思ってしまいました。また、ここでフェイが言っている借金。ギャンブルをするために借金をしているなど他の情報は何も出てきていませんので、冷凍保存の治療費(ウィットニーから受け継いだ借金)という解釈でよいのではないでしょうか。
タレント「このように私たちの局では〜」
本当にどうでもいい部分ですが拾っておきます。これで篠原ともえさんらしき人物の登場は二度目。前回は第8話の飛行機で登場しています。
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参照・引用(外部リンク)
『総図解 よくわかる 聖書とキリスト教』 前島誠 監修 / 新人物往来社 / 2011
『フリーメイソンリー その思想、人物、歴史』 湯浅慎一 著 / 中公新書 / 1990
『ヨーロッパ思想入門』 岩田靖夫 著 / 岩波ジュニア新書 / 2003
『アメリカ合衆国とは何か 歴史と現在』 高村宏子・粂井輝子・飯野正子編 / 雄山閣出版 / 1999
『アメリカのキリスト教がわかる』 大宮有博 著 / キリスト新聞社 / 2006
Wikipedia - プロビデンスの目https://ja.wikipedia.org/wiki/プロビデンスの目
Wikipedia - フランシス・ホプキンソンhttps://ja.wikipedia.org/wiki/フランシス・ホプキンソン
Wikipedia - 火星の地形一覧http://ja.wikipedia.org/wiki/火星の地形一覧
日本神経学会 - よくある症状「めまい」http://www.neurology-jp.org/public/disease/memai_s.html
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「カウボーイビバップ」各話の考察
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