2015.07.02

「ビヨンビヨンやユナボマーやYMCAなど90年代の思い出話などなど」

カウボーイビバップ 第22話カウボーイ・ファンク

絵コンテ:岡村天斎 / 演出:森邦宏 / 脚本:信本敬子

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爆弾魔テディボマーを追っていたスパイクは、カウボーイ姿の賞金稼ぎアンディに邪魔をされ、テディボマーを逃してしまう。ビバップ号に戻ったスパイクは再び爆弾魔を追うのだが、そこにはまたアンディの姿が……

第22話の主要スタッフ。絵コンテ・岡村天斎。演出・森邦宏。脚本・信本敬子。作画監督・川元利浩。メカ作画監督・後藤雅巳。

以下は核心部分を含みます

今回の第22話、まず軽めの所から拾っていきます。

アンディの登場時に流れている音楽。その中に「ビヨンビヨン、ビヨンビヨン」という特徴的な音色が聞こえていると思います。この音色を奏で出すのはジューズハープ(日本語だと口琴)という楽器です。カウボーイビバップが放送される数年前(記憶では1995年頃)、サブカル界隈でジューズハープが密かなブームになっていたと記憶しています。マセた同級生が学校にジューズハープを持ち込み出し、ビヨンビヨンブームが訪れたのを覚えています。もしかすると僕が通っていた学校で流行っていただけなのかもしれませんが……

< 第22話に関して >

当然の事ながら今回の主人公はスパイクです。

そして第22話の構成。第一幕で賞金首を追っていたスパイクがアンディに邪魔をされ、第二幕へと転がり出します。そして中間点、二回目のアンディをはさんでスパイクの劇的欲求が変化し、アンディーとの対決という主軸が浮かび上がってきます。内容としては非常にくだらない話なのですが、物語は非常にきれいな三幕構成になっていると思います。

主人公

「スパイク・スピーゲル」

ストーリー

「賞金首を追っていたスパイクは、アンディに仕事の邪魔ばかりされるため、アンディを倒す」

分岐点と概略

第一幕概略 「賞金首を追うスパイク」
第二幕への転換点(5m30s) 「アンディに邪魔され賞金首を逃してしまう」
第二幕前半概略 「再び賞金首を追うスパイク」
中間点(10m30s) 「アンディに再び邪魔をされる」
第二幕後半概略 「アンディを追うスパイク」
第三幕への転換点(16m00s) 「アンディとスパイクが三たび出会う」
第三幕概略 「スパイクがアンディを倒す」

第22話を分解

カウボーイビバップ 第22話 パラダイム

1.アンディ「ワイアット・アープと呼んでくれ」
ワイアット・アープ。相方のドク・ホリデイと共にOK牧場の決闘で有名な人物です。ちょうどカウボーイビバップが放送される二・三年前に「トゥームストーン」や、ケビン・コスナー主演の「ワイアット・アープ」などがヒット?し、ちょっとした西部劇ブームが起こったと記憶しております。

2.エド「YMCAに入ってる人なのらー」
物語の中では「Young Men’s Cowboy Association」です。

補足。初めスパイクは「クリスチャンか?」と返します。実際のYMCAは「Young Men’s Christian Association」の略であり、日本では西城秀樹さんの曲で有名になりました。しかし西城秀樹さんの曲はカバーであり、実はヴィレッジ・ピープルが歌った「YMCA」がオリジナル曲になります。ちなみにヴィレッジ・ピープルの「YMCA」、テーマは「ゲイ」です。

もう少し補足。ちょうどカウボーイビバップが放送される四・五年前に織田裕二さん主演の「卒業旅行 ニホンから来ました」という映画がありました。ざっくりいえば織田裕二さんが東南アジアで「YMCA」を歌って人気者になるというストーリーです。そのため僕の中で「YMCA」と言えば、織田裕二さんが真っ先に連想されます。

3.スパイク「反応は?」
若干聞き取りずらかった台詞。初見時「女は?」と聞こえてしまったため、いまいち意味が分かりませんでした。しかしよく聞くと「反応は?」と聞き取れます。その後、ジェットが探知機を見つめながら「まだ出ない」と答えますので、探知機の反応を聞いたということで間違いないと思います。

そしてその探知機。何を検知するのか正確には分かりませんが、テディボマーがトイレから出てきた後に探知機が反応していることを考えると、爆弾に信号を送る発信機からの電波を検知しているのではないでしょうか。

4.ジェット「ラブ&ピースだぜ、世の中」
60年代のベトナム反戦運動でヒッピー達から生まれた「ラブ&ピース」というフレーズ。そしてこの時代のヒッピー文化を象徴する物と言えば「大麻」です。というわけでジェットは大麻の絵が描かれたTシャツを着ています。

ちなみに直前のビバップ号のシーン。フェイの脇にドレス、アインの頭にカツラなど、仮装パーティーの小物が前振りとして登場しています。ただしこのシーンでジェットが縫っている物は大麻のTシャツではなく、アンディの馬に踏まれた際に破れたスパイクのシャツだと思われます。根拠はその生地の色です。

5.アンディ「さあ、私の特製サノヴァガンシチューをご馳走しよう」
そう言ってアンディはクラムチャウダーのような物を運んできます。サノヴァガンシチューとはいったい何なのか?この後フェイは缶詰をおみやげとして持ち帰ります。そしてその缶詰には「SON OF A GUN」の文字。つまりサノヴァガンシチューとはこの缶詰の商品名という解釈でよいのではないでしょうか。(もしかしたらサノヴァガンシチューという地方料理があるのかもしれませんが……)

ちなみにこの「son of a gun」という英熟語、「なんてこった」みたいな意味です。西部劇などではよく耳にする言葉かもしれません。

6.アンディ「君の瞳に映った僕に乾杯」
カウボーイビバップの中で一二を争う名言だと思います。元ネタは「カサブランカ」で、ハンフリー・ボガートの台詞「君の瞳に乾杯」です。ただしこの台詞、英語では「Here’s looking at you, kid.」、直訳すれば「君を見つめることに乾杯」といった感じになります。これを日本語っぽくしても「美しい君に乾杯」といった感じになると思うのですが、翻訳家の高瀬鎮夫さんは「君の瞳に乾杯」と意訳しました。意外かもしれませんが「君の瞳に乾杯」は日本人が作り出した台詞です。

A.ビッグショットで紹介されるテディボマー
この時、画面には「TED BOWER / TEDDY BOMMER(テッド・バウワー / テディボマー)」と名前が表示されます。まとめて後述します。

7.アンディの登場を警戒するスパイク。
例の音楽が聞こえ振り返るスパイク。しかしその先にはアンディではなく、口笛を吹きながら通り過ぎる男の姿。断定は出来ないのですが、この通り過ぎた人物は例の三人組(アントニオ、カルロス、ジョビン)の一人、ジョビンではないでしょうか。

★.テディボマー「私は警告したかったのだ」
そしてテディボマーは「哲学なき資本主義が生み出した全ての無駄に対して」と続けます。カウボーイビバップの制作年から考えると、ある大きな事件が元ネタになっていると思われます。下記にまとめます。
 

ユナボマーとテディボマー

今回登場するテディボマー(本名:テッド・バウワー / TED BOWER)、元になっているのはユナボマーで間違いないと思います。カウボーイビバップの制作年から考えると、1996年に逮捕されたユナボマーはかなりタイムリーな事件であり、僕も第22話初見時に真っ先に思い浮かべました。

実際にユナボマーの本名はセオドア・カジンスキー。このセオドアの愛称が「テッド」もしくは「テディ」となります。今回爆弾に使われたクマのぬいぐるみ「テディベア」も、セオドア(テディ)・ルーズベルトが由来になっています。

また一般的に使われる「ユナボマー」という名称、大学(University)と航空会社(Airline)をターゲットにする爆弾魔(bomber)だったため、FBIがその頭文字を取り「UnA bomber」と名付けました。

もう一つの共通点。物語の最後にテディボマーはなぜビルを爆破するのかと問われ、「警告したかったのだ。哲学なき資本主義が生み出した全ての無駄に対して」と答えます。本質的な思想は違いますが、ユナボマーも「産業革命以降の進歩は結果的に人類に不幸をもたらす」と断じ、「現代社会の経済的・技術的基盤を転覆させる」ために数々のテロを引き起こします。

ちなみにユナボマーが出した「産業社会とその未来 / Industrial Society and Its Future」という犯行声明文、ネット上に和訳が見つからないため全文を引用して載せたいと思ったのですが、断念しました。ネット上の解説ではちょっとした文章のように感じたのですが、実際に全文を目にすると原文で約35,000語、日本語訳では目算で約90,000文字と、気が遠くなる文量です。

ちなみに「ユナボマー 爆弾魔の狂気(Amazonリンク)」という本に全文訳が載っています。内容をざっくり言えば産業テクノロジー批判なのですが、理論の組み立てで左翼批判をもう一つの軸に持ってきています。

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参照・引用(外部リンク)

wikipedia - 高瀬鎮夫 https://ja.wikipedia.org/wiki/高瀬鎮夫
『ユナボマー 爆弾魔の狂気』 タイム誌編集記者 著 / 田村明子 訳 / KKベストセラーズ / 1996
『世界テロ事典』 浦野起央 著 / 三和書籍 / 2001

「カウボーイビバップ」各話の考察

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