「ファドはなぜジェットに声をかけたのか?ファドの気持ちを考察してみます」
カウボーイビバップ 第16話ブラック・ドッグ・セレナーデ
絵コンテ:山内重保 / 演出:佐藤育郎 / 脚本:横手美智子
冥王星へ向かう囚人輸送船で、死刑囚達の反乱が起こる。その死刑囚の一人であるウダイは、ジェットにとって因縁のある人物だった。かつての同僚ファドから情報を聞き、ジェットはウダイの行方を追う。
第16話の主要スタッフ。絵コンテ・山内重保。演出・佐藤育郎。脚本は横手美智子。作画監督・竹内浩志。メカ作画監督・後藤雅巳。
以下は核心部分を含みます
第16話の記事作成中、重大な勘違いをしていました。ジェットがISSPを辞めた時期を、なぜか三年前だと思い込んでいました。スパイクやフェイの設定とごっちゃになっていたのだと思われます。第10話で、ドネリー「お前がここで働いていたのは、かれこれ七、八年前か」という台詞がすでに登場していたのですが……(2015年の話です。その際に修正済のため、ただの独り言です)
以下、第16話の感想。
個人的にはすごく好きな話なのですが、細かいエピソードや台詞などが、どこかで見聞きしたような気がして、初見時はモヤモヤした物が残りました。しかし物語をしっかり読み進めると、感想も違った物になってくるのかもしれません。そう信じて、今回は(たとえ間違っているとしても)ある程度突っ込んで考察してみます。
< 第16話に関して >
当然の事ながら主人公はジェットです。
今回の流れは、ジェットが過去とどう向き合うかということから展開していきます。そしてフェイやスパイクとは違い第10話、第16話ともに、その話の中で結論が出ます。これはフェイやスパイクの(物語の)帰結点が過去や未来にあるのに対し、ジェットの場合は「今」にあるからではないでしょうか。
何を言いたいのか伝わりにくいので補足。物語の帰結点にたどり着くということは、劇的欲求に対して何らかの答えが出て、物語が終わるという状態です。スパイクやフェイの場合、過去や未来に対する問題が解決した場合、物語が終わってしまうため、謎を残したまま続いていく形になります。しかしジェットの場合、「今」が一話内で完結しないと「過去」か「未来」になってしまいます。ジェットの劇的欲求が「今を生きる事」であれば、過去や未来が交差することはあっても、それを引きずることは(構成的に)許されないということです。
主人公
「ジェット・ブラック」
ストーリー
「ウダイが逃げた事を知ったジェットは、過去にケリをつけようとし、ウダイもファドも死に一件落着」
分岐点と概略
第一幕概略 | 「囚人輸送船での反乱」 |
---|---|
第二幕への転換点(6m30s) | 「ウダイが逃げた事をジェットが知る」 |
第二幕前半概略 | 「過去とどう向き合うか悩む」 |
中間点(11m00s) | 「ジェットがファドと合流」 |
第二幕後半概略 | 「ウダイを追うジェットとファド」 |
第三幕への転換点(18m30s) | 「本当はファドに裏切られた事を知る」 |
第三幕概略 | 「ウダイもファドも死ぬ」 |
第16話を分解
1.閉まらない扉
何かが間にはさまったため、自動扉が開閉動作を繰り返しています。引きのカットで扉付近に死体が散乱している状況を考えると、はさまっているのは警官の死体であると思われます。
なぜこの演出を抜き出したのかというと、エウレカセブンの第26話で同じ演出(はさまっているのはぬいぐるみ)があったため、佐藤大さんつながりで何かあるのかなと思ったからです。一応今回の第16話、佐藤大さんは舞台設定協力にクレジットされています。(特に関係はないのかもしれませんが……)
2.タルカン「あんた、組織の殺し屋のウダイ」
最後までこの「組織」が何であるかは明かされません。しかし上記のセリフから考えれば、マフィアの様な組織だと推測できます。
別角度から。後半に、ファド「組織に逆らった人間は〜辞めるか、あるいは死ぬかだ」という台詞があります。そのため、もしかすると「組織」とは警察という可能性も考えられます。ただ「組織」を警察とした場合、殺し屋などいるわけはありません。そう考えると、この「組織」とは警察の内部まで食い込んでいるマフィアのような団体、もしくは反社会的な結社と考えるのが妥当ではないでしょうか。ただ中盤でウダイが連絡を取っていた「組織」の人間は、警察上層部のメンバーであったという可能性も残るかと思います。
3.ジェット「七年分の利子がついて〜」
昔のコーヒー代の話。第10話でドネリーは「お前がここで働いていたのは、かれこれ七、八年前か」と、若干あいまいなことを言いますが、ここでジェットははっきりと「七年」といいます。そのためジェットが警察を辞めたのは、正確には七年前であるということが分かります。
4.ジェット「俺がもし戻らなかったら、盆栽に水をやっといてくれ」
「もし戻らなかったら」これがどういうことなのか。素直に解釈をすれば、ウダイにやられて死んでしまった場合、ということになるかと思います。この解釈で問題いはないと思いますが、他の可能性も考えてみます。
次のことを根拠にして別案。かなり薄い根拠ですが「水をやっといてくれ」という部分。ここまでくるとニュアンスの問題なのですが、カタがついたら戻るという意味も含まれていると思います。そう考えると、ウダイを追うのが長期化すると思い、戻るまで「水をやっといてくれ」と頼んだ、という解釈も成り立ちます。
もう一つ別角度から。中盤でファドが「賞金稼ぎなんか辞めて、俺と組まないか」と言います。ジェットもビバップ号を出る時に、同じことを思っていた可能性も考えられます。ただしその場合「この船は俺の船だ」と思っているジェットが、一度も船に戻らずファドと合流するとは思えません。そもそもジェットがこの時点で(ファド「もう一度俺と組まないか」の台詞はまだ出ていない)ファドともう一度組むということは考えてはいなかったと思います。もしジェットがそういったこと考えていたとすれば、今回の話が「今」を生きるために過去にケリをつけるという話ではなく、失った「過去」に戻るために過去にケリをつけるという話になってしまいます。
最後に初案補足。エドの「”もう”戻ってこないんだって」という台詞から考えると、やはりジェットは(もしくは作り手側は)ウダイにやられて死んだ場合という意味で、「戻らない」という言葉を使っていたのだと思います。
★A.ファド「しかしウダイはもうー」
この台詞のあと、なぜかファドはジェットから視線を反らし、台詞を言い直します。そしてその後、ファド「食らいついたら離さないブラックドックか」と意味ありげにつぶやきます。そもそもなぜファドはジェットを呼んだのか?そしてファドはこの時、何を思ったのか?その他部分と合わせて後述いたします。
5.フェイ「どこ直したってのよ」
どうでもいい部分ですが、なぜ直したはずのシャワーから熱湯しか出なかったのか?
まず直す前の状態。冒頭でフェイは「水しか出ない」と言っています。水しか出ないのは、水が沸かされずそのまま流れているため、もしくは水に対してお湯の比率が少なくほぼ水の状態で出て来ているため、と考えられます。その事をふまえて二案。
A、ウダイの事で頭がいっぱいになり修理が中途半端な状態だった案。ジェットの重い話と、フェイのくだらない話が対比されているため、一見そういった解釈も出来そうです。しかしファドの所に向かう際、盆栽にも気をかけていたことや、ジェットの几帳面な性格から考えると、いい加減な修理をするというのは考えにくいと思われます。
そこでB。ビバップ号がボロボロでもはや完璧な修理が不可能な状態であった案。そんな状態であったにも関わらず、フェイがシャワーを浴びている時、エドが盆栽に水をまいています。つまりエドが大量に水を使っていたため、船内の給水バランスが崩れ、シャワーからお湯しか出なかったのではないでしょうか。そして最後には水すら出なくなったという流れです。個人的にはこの案が正解だと思います。
6.ファド「お前の勝ちだ。いたぞ」
ウダイの行方を探している時に使っているモニター。ここで二人が見ているのは、ゲート公団(画面にはGATE PUBRIC CORPORATION)のゲートマップ(同・PLANET JUPITER GATE MAP)というシステムです。そして画面右上には「TIME CORE : 2071.7.7」とあります。そのため第16話の正確な日付、この物語は2071年7月7日の出来事だという事が分かります。
7.監視カメラを見つけるジェット
この後のジェットのジェスチャー。なぜそう思ったのか根拠を示すことは出来ないのですが、「首を洗って待ってろ」という意味だと思います。この「首を洗って待つ」は、切腹の作法から来ていますので、日本独自の表現であるような気もします。そう考えた時、昔の日本映画でこの表現を見たことがあったのかもしれません。(全くその記憶はありませんが……外国映画かも?もしかしたら海外にも似たよな表現があるのかもしれません)
★B.モニターの電源を切るファド / ★C.ファド「お前が一人で行くからこうなって」
まとめて後述します。
8.ファドの手元に拳銃を置くジェット
いちいち解説する内容ではないのですが、ちょっとだけ混乱したので確認。警察が現場に到着した時、ファドとウダイが撃ちあったと見せるため、拳銃をファドの手元に置きます。この時ファドの手元にあるのは、ウダイを撃ったファドの拳銃です。そしてファドを撃ったのは、ジェットが拾ったウダイの拳銃です。問題なくつじつまは合います。
ちなみにファドが持っている拳銃は「スミス&ウェッソン M29 / 44マグナム」、ダーティーハリーの主人公ハリー・キャラハン(クリント・イーストウッド)が持っている「世界一強力な拳銃(the most poweful handgun in the world / 劇中台詞)」です。
そしてこの前に入った、ISSPが囚人輸送船を包囲しているカット。ジェットがこの包囲網をかいくぐるのはさすがに不可能なはずで、ISSPに見つかった場合は確実に事情聴取されるはずです。事の顛末を知っているので、一瞬つじつまが合わなくなると思いましたが、ジェットがたどり着いた時には、二人はもう死んでいたと説明すれば問題はないのかも知れません。
ファドはなぜジェットと連絡を取ったのか?
第16話のキッカケになる部分。ファドはどういった気持ちでジェットを呼び、そしてウダイの元に向かったのか?説明台詞がないために確証を持った答えを出す事は難しいのですが、順を追って考察してみたいと思います。
なぜファドはジェットと連絡を取ったのか?
分かりにくい部分ですが、考えられる理由はあまり多くはないはずです。
まず可能性が低い方から。後半でファドは「組織に逆らえば〜」と話をします。つまり、ファドは今でも組織との関係が続いていて、組織からウダイを消す事を依頼されていたのではないのでしょうか。しかしファドは警官として所属する管轄があり、ウダイを追う場合は管轄外ということになってしまいます。そこでファドは、ウダイと因縁のあるジェットに助けを頼んだ、という流れではないでしょうか。
しかし、どうも理由が大きくなりすぎているような気がします。それにわざわざ初動の段階でジェットに声をかけるというのも不自然に感じます。そこで次案。
やはり単純に、ウダイがジェットに対し左腕の真相を語るのを防ぐため、と考えるのが妥当ではないでしょうか。流れとしては、まずウダイが逃げたことを警察内部の情報としてファドが知ります。ただウダイがジェットの元に向かうということは、まずありえません。しかしジェットがウダイの逃亡を知れば、左腕のケリをつけようとウダイの元に向かう可能性が高くなります。まして解決が長引き、ウダイに賞金がかけられた場合は間違いなくジェットは動くはずです。ファドはそうなる前に先手を打ち、ジェットに連絡をしたのではないでしょうか。
上記案の補強。ファドは「このままあいつが生き延びたら、その左腕は泣かないか、ジェット」と、ジェットの帰り際に声をかけます。この台詞、額面通り受け取ればジェットに対し「一緒にウダイを倒そう」と翻意を促したようにみえます。しかし実際は、ジェットが言葉とは裏腹にウダイのところに向かわないかどうか確認したのではないでしょうか。
もちろん、ジェットが来た時のファドの笑顔から、ジェットともう一度組みたかった、ジェットに左腕のケリをつけさせてやりたかった、と考えることも出来ます。しかしそれはジェットが誘いに乗ってくれた結果であり、やはり最初に連絡を取った理由はジェットが真相を知ることを恐れたためだと思います。
ウダイを追っていた時のファドの気持ちは?
★A部分。ジェットが「ウダイはエウロパに向かうはずだ」と言った時、ファドは「しかしウダイはもう……」と言いかけ、何かを悟ったような表情をします。そして視線をそらし、最後に「食らいついたら離さないブラックドックか」と独り言のようにつぶやきます。この時ファドは何を思ったのか?三案出します。
案1。ウダイがエウロパに向い組織と接触をしてしまった場合、ジェットに左腕の真相がばれる危険がある、と考えた表情ともとれます。そしてジェットを直視することが出来なくなり「もうずいぶんと組織とは接触がないはずだ」と、ごまかすように続けます。しかしジェットの洞察力に感心し「食らいついたら離さない〜」とつぶやいたのではないのでしょうか。
案2。管轄外ということでジェットを呼んだのに、結局ウダイは組織の所に向かうと言われ、余計なことをしてしまったという表情。そして「食らいついたら離さない〜」は、案1と同じく洞察力に感心してのつぶやきになります。一番可能性は低いです。
案3。最後の「食らいついたら離さないブラックドック」というつぶやきから逆算。このファドのつぶやきは「左腕の真相に食らいついたら離さない」という意味ではないでしょうか。何事もなくウダイを消せば終わると考えていたファドが、エウロパや組織など徐々に真相に近づいて来るジェットを見て、いずれ自分の所までたどり着いてくる。そう感じたからこそ台詞を途中まで言いかけ、最後に「食らいついたら離さない〜」とつぶやいたのだと思います。個人的にはこの案押しです。
ジェットの所に向かうファドの気持ちは?
★B部分。ファドは銃弾を一発だけ込め、モニターを切ります。この時モニターに何が映っているかは描かれていませんが、話の流れ的にはジェットとウダイが戦っている所だと思われます。ただしストーリーとしては、この後にウダイが真相を語るという流れになるため、ファドはウダイが真相を語っている所を見てはいません。
それなのになぜ、銃弾は一発だけだったのか?
「ブラックドッグ」であるジェットは、間違いなく真相にたどり着く、ファドはそう確信していたのではないでしょうか。そのためウダイを殺し、自分も死ぬつもりだった。もちろん死ぬというのは、ジェットに殺されるということです。それは自身の手でウダイを倒すことにより裏切ったことへのケリをつけ、ジェットに殺されることによって裏切ったことへのケジメをつける、ということだと思います。
しかし若干の疑問。もしウダイがすでにやられていたら、ファドはジェットに銃を向かたのか?ウダイがすでに死んでいた場合は、ジェットに銃を向けるだけで引き金を引かない、もしくは外すということを考えていたかもしれません。ただしファドの汚れた性格からジェットを撃ち殺すという可能性も捨てきれません。もちろん真相がバレていなければ、何事もなくハッピーエンドです。またウダイだけが生き残っていた場合は、ウダイを撃っておしまいということだったと思います。
ただし(繰り返しになりますが)ファドは、ジェットが必ず真実にたどり着くと確信を持っていたと思います。根拠はありませんが、パートナーとしてやってきたジェットに対する信頼から、ファドはそう確信していたはずです。そのため今回の結末以外は想像していなかったと思います。
補足。ファドは一発の銃弾をロシアンルーレット状にしたのか?ファドは一発だけ銃弾を込め、弾倉を回して閉じます。しかし、そんなロシアンルーレットのような状態で、死んでいるか分からないウダイの所に向かうことは考えられません。それに「ガンマン気取り」のファドは、しっかりと銃弾を見ながら弾倉を閉じます。そう考えるとルーレット状にしたという案は、弱いような気がします。
ファド「お前が一人で行くからこうなって」
★C部分。過去のことか今のことか。どちらか一瞬混同しますが、両方を指していると思います。根拠はこれに対するジェットの台詞「だからおれを裏切ったのか(過去)、だまし続けたのか(今)」です。
最後に。
ファドは「組織に逆らった人間がどうなるか分かるだろ。お前みたいに辞めるか、あるいは死ぬかだ」と言います。ファドはこの時点で死を覚悟しています。その前段階でわざわざこの台詞を言ったということは、組織に従いジェットを撃ったことを後悔していたのだと思います。
色々な嘘や計算があったファドの気持ちが、物語を通して覚悟と後悔に集約していきます。それが「昔みたいにお前ともう一度組みたかったよ。お別れだジェット」という台詞です。そう考えると、ありきたりとも思えたこの台詞が、ずっしりとした重みを持ってくるのではないでしょうか。
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