2015.01.25

「フェイの設定、補足とおさらい。ついでにロマニーとゴールジュについても補足」

カウボーイビバップ 第15話マイ・ファニー・ヴァレンタイン

絵コンテ:岡村天斎 / 演出:森邦宏 / 脚本:信本敬子

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三年前にコールドスリープから目覚めたフェイは、過去の記憶を失っていた。そしてその治療費として多額の借金を背負ってしまう。そんなフェイを支えていた弁護士のウィットニー。しかし彼は追ってきた借金の取立屋に殺されてしまう。

第15話の主要スタッフ。絵コンテ・岡村天斎。演出・森邦宏。脚本は信本敬子。作画監督・逢坂浩司。メカ作画監督・後藤雅巳。

以下は核心部分を含みます

2017.05.05 追記

めずらしく感想です。

内容的には核心に触れる事なく、くだらない話に帰結するだけなのですが、個人的には非常に好きな話です。収監されたウィットニーの「本当の事が一つある」と言う下りがなんともシビれます。やはりこの台詞は、ブクブクに太った男が口にするからグッと来るのだと思います。とはいえ大塚明夫さんでなければ成立していたかどうか怪しいような気もしますが……

一応補足。「スリーピング・ビューティー」とは「眠れる森の美女」の原題であり、その主人公の事です。「眠れる森」の美女なのか、眠れる「森の美女」なのか、などと悩んでいる人がいたら「そんなの見れば分かるだろ!」と言ってあげて下さい。

もう一点。冒頭に出て来るダイオキシンばりばりの魚。言い換えると「魚からダイオキシン」です。昔そんな映画がありました。時代を象徴していると言われた問題作です。興味がある人は、騙されたと思って見て下さい。たぶん騙されます。

くだらない話は以上です。

< 第15話に関して >

今回の主人公はフェイです。というかフェイ一色です。そして今まで謎に包まれていた過去が、少しだけ明らかになります。

一点補足。第13話で物語が折り返しになり、第14話から全体第二幕後半が始まります。そして第14話は仕切り直しという形で、ビバップ号メンバーに焦点が当たり、日常に戻ります。そして第15話から第17話にかけて、スパイク以外のメンバーが主人公になり、今まで語られなかった部分が(第17話にエドの詳細情報はありませんが)描かれていきます。

主人公

「フェイ・ヴァレンタイン」

ストーリー

「過去の記憶を失ったフェイはウィットニーに助けられるが、彼が詐欺師だと気付き、警察に突き出す」

分岐点と概略

第一幕概略 「過去の記憶を失ったフェイ」
第二幕への転換点(5m30s) 「ウィットニーと出会う」
第二幕前半概略 「ウィットニーとの思い出」
中間点(14m15s) 「ジェットがウィットニーを捕まえてくる」
第二幕後半概略 「ウィットニーと逃げる」
第三幕への転換点(18m30s) 「スパイクにつかまる」
第三幕概略 「ウィットニーを突き出す」

第15話を分解

カウボーイビバップ 第15話 パラダイム

1.マンディー「演技ではありませんわ、ドクター」
この時、マンディーが見ている画面。フェイの生体情報が表示されています。モニター左側の情報は若干数値がおかしい(例えば「BP/Blood pressure 血圧」の数値など)ため、そこは無視します。しかしモニター左下の情報。この部分に関しては、間違いなく設定から引っ張っていると思われますので、抜き出しておきます。

PAITENT
AGE / 20
T / 168
W / 45
S / F.

この後のシーンでもウィットニーが言及しているため、あえて抜き出す必要もないのですが、フェイがコールドスリープから目覚めた時の年齢は二十歳であるということがここからも分かります。

2.ウィットニー「今から54年前の事です」
フェイは54年間コールドスリープされていた。上記(分解1)の追加情報になります。そして、この後のウィットニーの台詞から、フェイが目覚めた年は2068年ということが分かります。

3.フェイ「三億なんて払えない」
フェイの借金額が明らかになります。それが上記の金額。第3話でフェイは自分にかけられた賞金額を聞き「なんだ600万ぽっちか」と言います。また、同じく第3話でゴードンがチップの価値を「君の借金など宇宙の中の一秒に等しくなる金額だ」と説明します。普通には返しきれない金額でありながら、あまり不自然ではない金額。三億という数字はまあまあ妥当な線かもしれません。

4.フェイ「文字が赤いのはなぜ?」
ウィットニーの借金画面。何の借金なのか抜き出してみます。(三段目と六段目のpurchaceはたぶんスペルミスなので修正します)

Travel charge / W 552,300 (旅費)
Payment of credit cards / W 1,389,632 (クレジットカード支払い)
Purchase of immovable property / W 30,227,500 (不動産の購入)
Development assistance / W 9,986,500 (開発援助)
Payment of credit cards / W 432,000 (クレジットカード支払い)
Purchase of immovable property / W 1,612,000 (不動産の購入)
Payment of credit cards / W 89,254 (クレジットカード支払い)

バッカスは「何かあった時には君に全ての財産を譲渡するように」とウィットニーから言われていると、フェイに説明します。そして「借金も財産の内」と言いますが、画面に表示されている内容は借金というよりは支払いです。そう考えると、初めからウィットニーは詐欺師だったのだと思われます。

もう一つ補足しておくと、バッカスとウィットニーが親戚関係であったり、ドクターが警察のフリをしていたりという事から考えても、この三人はチームとして劇場型詐欺をずっと行って来たということで間違いないと思います。

5.フェイ「おおどしまですから」
黄土島?気がつくまでかなりの時間を要しました。「大年増」です。フェイがコールドスリープで眠っていたため実際の年齢はかなり高い、という流れを考えれば聞き間違うはずのない台詞なのですが、なぜか長いこと勘違いをしていました。

★.スパイク「ロマニーだのなんだの、今のも作り話じゃないだろうな」
ロマニーとゴールジュについて、第3話でスルーしてしまった部分。フェイはロマニーなのか?と合わせて後述いたします。

6.ウィットニー「三年ぶりか」
分解2の追加情報。ここでフェイとウィットニーが別れたのは三年前だということが分かります。これに関しても、第15話で明らかになったこととして後述します。

7.スパイク「もう出るつもりか?」
フェイがビバップ号の動力をオフにした際、ジェットとスパイクが下記の様に賭けをします。

ジェット「(フェイがウィットニーを)逃がす気か?」
スパイク「(ウィットニーが)逃げる気かもな」

この少し前のジェットとのやり取りでも、スパイクは「そんな情のある女か?」とフェイを小馬鹿にしたような態度を取ります。しかし実際フェイはウィットニーを逃がそうとします。第10話でも「女がみんな自分と同じだと思ったら、大間違いだぞ」と、スパイクはフェイを小馬鹿にしたような態度をとります。しかし、この時もアリサがジェットを思っていることはなく、スパイクの考えが外れてしまいます。何気ないやり取りですがラストにもつながる部分なので補足しておきます。

第10話は「お前みたいな女とジュリアは違う」という思いから出た台詞であり、今回・第15話の台詞はそのフェイに対する先入観から出た何気ない台詞だったのだと思います。スパイクの中ではジュリアだけが特別で、フェイのこともひとまとめに「それ以外の女」としか見ていなかったということです。結局スパイクはフェイのことを深く理解しようとはせず、このズレがそのまま最終話でフェイの静止を振り切り、ビバップ号を出ていく流れにつながるとも考えられます。これに関しては最終話でもう少し詳しく見ていきます。

8.閃光弾を発射するレッドテイル
ARMとはなにか。ARMとは対レーダーミサイル(Anti Radiation Missile)の略です。ミサイルを射っているので、これかと思ってしまいますが、対レーダーミサイルはその名の通り、レーダーを破壊する攻撃兵器です。そう考えると制作側のミスのように思えてしまいますが、このARMは何かの略ではなく、単純に「Arm = 兵器」という名詞ではないでしょうか。

9.スパイク「過去はどうあれ未来はあるだろ」
結局何も分からなかったフェイの過去に対して、スパイクは「どうでもいんじゃねえの」と言います。そして「あんたは過去があるからそう思うのよ」と返すフェイ。その後スパイクは上記のように返します。過去と未来。この何気ない台詞が最終話への伏線にもなっています。詳しくは最終話で考えてみたいと思います。

10.マジックで書かれたアインの眉毛
もしかしたらあまり深い意味はないのかもしれませんが、二案。

第15話は、アインの薄い眉毛でウィットニーを思い出した所から始まります。そう考えると、フェイはウィットニーの事を思い出さないようにと、アインに眉毛を書いたのではないでしょうか。しかしその場合、まだ過去を引きずているという印象を受けます。そこで次案。

上記・分解8の後、フェイはスパイクに分前をもらい少し微笑みます。その時スパイクは、ウィットニーを「ザコ中のザコ」と説明しています。修正、これはウィットニーというザコにこだわっていた自分が馬鹿らしく思えたからではなく、スパイクの「過去はどうあれ未来はあるだろ」という台詞を受けて前向になれたという笑顔だと思います。そこから過去にこだわっていた自分を吹っ切る意味で眉毛を書いた、と考えられるのではないでしょうか。その場合初めの案と違い、気持ちは未来を向いている感じになると思います。

11.SLEEPING BEAST
ラストで表示される言葉、今回はいつもと違います。この言葉、ダブルミーニングかもしれません。一つ目は、眠っているアイン「眠れる動物」という意味。二つ目は「スリーピング・ビューティ」に対しての「眠れるろくでなし」、フェイに対してのウィットニーということだと思います。ただし、スリーピング・ビーストという何かが存在し、別の意味があるという可能性も考えられます。
 

フェイの人物設定とロマニーについて

<第15話で明らかになった事>
すでに上記した内容ですが、改めてまとめます。

フェイがコールドスリープから目覚めたのは、今から三年前の2068年です。そしてコールドスリープされたのはそこから54年前、つまり2014年です。その時点で二十歳ということは、フェイは1994年生まれという事になります。そしてそこから計算すると、フェイの実年齢は77歳だという事が分かります。

そして本題。過去の記憶が欠落している事を考えると、フェイがロマニーかどうかかなり怪しくなってきます。本来なら、18話・24話まで引っ張りたい所ですが、このロマニーという単語は、これ以降登場しなくなってしまいますので、ここでやっつけておきます。

しかしまず、第3話で取りこぼした、この「ロマニー」と「ゴールジュ」に関して。

<ロマニーとゴールジュ>
第3話で、ロマニーとはジプシーの事で、ゴールジュとはそれ以外の誇りを持たない人々の事、と説明があります。これに関して若干の補足をしておきます。

まずこのジプシーですが、語源はエジプト人(egyptian)の頭が抜けて語尾がなまって、ジプシー(gypsy)になったと言われています。インディアンなどと同じく、現在では差別用語に分類され、おおやけでは使われる事はなくなりつつある言葉です。フランス語の「ジダン(gitan)」、スペイン語の「ヒタノ(gitano)」という呼び方も、同じエジプト人というのが語源になっています。

そしてジプシーは自分たちのことを「ロマ(roma)」複数形では「ロム(rom)」と呼びます。ロマ語で「人間」という意味です。そこからロマ人という事で「ロマニー(romany)」となります。ちなみに「romany」は単数名詞、複数形の場合「romanies」となります。(日本人は単数でも複数でもjapaneseなのに不思議です)

そしてロマ族以外の人々を「ゴールジュ(gadjo)」と呼びます。ロマ語(つまりロマ人が使う正確な呼び方)では「ガージョ(gaźdo)」です。

このゴールジュという言葉の語源は正確には分かっていないそうです。そのため言葉のニュアンスもいまいち分かりませんでした。本によっては、少々の侮蔑的な意味(沖縄の「ナイチャー」のような感覚)を持っているとも書かれていますし、ただ単によそ者を呼ぶ時に使うだけ(沖縄の「ヤマトンチュ」のような感覚)と書いてある本もあります。

以上。

なんちゃって解説なので詳しくは調べた方がよいと思います。地域や男性女性で呼び方が違ったり、単数複数で違ったりと、実際はかなり複雑です。

<フェイはロマニーなのか>
話はそれましたが本題。第3話の考察でも触れましたが、フェイは帰る場所もなく各地を旅するロマ族のような生き方に、自分自身を投影していたのかもしれません。そして自分のルーツはロマ族にあるのではないか、と思い込むようになっただけなのではないでしょうか。

実際に第24話で登場したフェイの記憶は、大きな家がマーライオンの近くにあり、そこに定住して幼少期を過ごしていたという過去です。そう考えた時、フェイがロマ族出身という可能性は限りなくゼロに等しいと思います。

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参照・引用(外部リンク)

『ジプシー 漂泊の魂』 相沢久 著 / 講談社現代新書 / 1980
『ジプシーの謎を追って』 木内信敬 著 / 筑摩書房 / 1989
『ジプシー 民族の歴史と文化』 アンガス・フレーザー 著・水谷驍 翻訳 / 平凡社/ 2002
『千年の旅の民 ジプシーのゆくえ』 木村聡 著 / 新泉社/ 2010
Wikipedia - ロマhttp://ja.wikipedia.org/wiki/ロマ
Wikipedia - Gadjohttp://en.wikipedia.org/wiki/Gadjo_(non-Romani)
Wikipedia - Anti-radiation missilehttp://en.wikipedia.org/wiki/Anti-radiation_missile

「カウボーイビバップ」各話の考察

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