2014.08.09

「象徴的な物。リップ・ヴァン・ウィンクル、浪花節、動かない時計など。」

カウボーイビバップ 第10話ガニメデ慕情

絵コンテ:山口祐司 / 演出:山田弘和 / 脚本:稲荷昭彦

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捕まえた賞金首を引き渡すためにガニメデに向かうビバップ号。その途中でジェットは、昔自分の元から去った恋人のアリサの事を聞かされる。なぜ彼女が自分の元を去ったのか、その事を知ろうとジェットはアリサの元に向かう。

第10話の主要スタッフ。絵コンテ・山口祐司、演出・山田弘和。脚本は稲荷昭彦。作画監督・逢坂浩司。メカ作画監督・後藤雅巳。

以下は核心部分を含みます

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今回の第10話、もしかしたらと思ったことがありました。第1話と対比させて考えると、アリサの気持ち、そして過去に対するジェットとスパイクの違いが浮き上がるのではないかと。

考えました。しかし考えれば考えるほど、何かがおかしい。それでも無理矢理こじつけて、まとめてみようと頑張りました……あきらめました。どう考えてみてもそんな構成にはなっていません!
やはり、頭でっかちにならずに、楽しく作品を見ていくのが一番です。

< 第10話に関して >

今回の主人公はジェットです。今までジェットの過去については、長々と語られる事がなかったため、今回はその説明に多くの台詞が割かれる形になっています。そして、それを同じ話で回収し解決しなければいけないため、よく言えば伏線・前振りが盛りだくさんの構成になっています。

主人公

「ジェット・ブラック」

ストーリー

「ジェットがアリサに会い、過去にケリをつける」

分岐点と概略

第一幕概略 「ジェットがアリサの事を思い出す」
第二幕への転換点(6m00s) 「ビバップ号から飛び立つジェット」
第二幕前半概略 「アリサがリントと付き合っている事を知る」
中間点(10m20s) 「スパイクがリントに賞金がかかっている事を知る」
第二幕後半概略 「スパイクがリントを追う」
第三幕への転換点(17m00s) 「ジェットが一人でリントを追う」
第三幕概略 「ジェットが過去にケリをつける」

第10話を分解

カウボーイビバップ 第10話 パラダイム

1.動かない懐中時計を見つめるジェット
時計盤上にある時間、一周が15時間になっています。この15時間というのが何を表しているのか、そう考えると結構難しい単位です。当然ですがその星の一日が何時間であるかは、自転のスピードで決まります。そこでビバップの世界で登場する、主な星々の1日を列挙してみます。

地球 24時間
火星 24.5時間
金星 2808時間
木星 10時間
冥王星 153時間
ガニメデ 172時間
エウロパ 85時間
カリスト 400時間

おおよその時間になりますが、各星々の一日は上記ような形になります。しかしここに15の倍数になる、自転周期を持っている星は見当たりません。そもそもの話になってしまいますが、この世界の人間はもともと地球に住んでいたことを考えると、1日は24時間でもおかしくはないはずです。何か設定があるのかもしれませんが、物語上からうかがい知ることが出来ないのが残念です。

2.ドネリー「このリップ・ヴァン・ウィンクルめ」
ドネリー「てめえの早さで時間はかるんじゃねー」に続けて上記の台詞。分かりにくいですが、第10話の内容を考えて何度も聞くと、「リップ・ヴァン・ウィンクル」と言っている事が分かります。

リップ・ヴァン・ウィンクルとは、アメリカのおとぎ話で、ざっくり言えばアメリカ版・浦島太郎です。ただ、浦島太郎と違い、目覚めた先は20年後であり、妻が亡くなったり友人達が年老いたりはしていたものの、知り合いが全くいないという訳ではありません。そう考えると、ジェットを浦島太郎ではなく、リップ・ヴァン・ウィンクルに例えたのは、今後のストーリーをより暗示させるためだと思われます。

またこの後、ジェットが元警官だと分かった時、フェイが「どうりで。相性悪いと思ったわ」と言います。第9話でハッカーを捜す際、フェイとジェットというコンビで動き、上手くいかなかったため、上記の台詞になったのだと思われます。

追記 / 2016.03.14
近々、岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』という作品が公開されます。そのタイトルにもなっている「リップヴァンウィンクル」、「時代遅れの人」や「眠ってばかりいる人」という英語の慣用句であるとあちこちで見かけるようになりました。確かにWikipediaにもこの説明が載っていました。もしこれが単なる慣用句であるならば、ドネリーの台詞に深い意味はなく、ただの決まり文句みたいな物だったのかもしれません。長い間「リップ・ヴァン・ウィンクル」は「アメリカ版の浦島太郎」みたいな表現とは理解していたのですが、これが慣用句だという事は知りませんでした……本当に慣用句かなー?

3.ビバップ号から飛び立つハンマーヘッド
これまでスパイクが主人公であった回は、第二幕への転換点として、ビバップ号から飛び立つソードフィッシュというカットが多く使われていました。しかし今回は主人公がジェットであるため、水面に浮かぶビバップ号からハンマーヘッドが飛び立つ、というカットが使われています。

4.スパイク「女がみんな自分と同じだと思ったら、大間違いだぞ」
フェイ「昔の女が、今でも自分の事考えてるなんて思ったら大間違いよ」を受けての台詞。スパイクが「女は〜」と返します。今回はフェイの言っている事が正しく、アリサは新しい男を見つけ、ジェットを待っている事はありませんでした。

第10話に限らず、スパイクが考える女性の気持ちは外れる事が多いです。似たような話では第15話。ウィットニー・ハガス・マツモトに対してフェイがどう対応するか、ジェットと意見が分かれます。この時も、フェイはウィットニーを逃がすという行動を取り、スパイクはフェイの気持ちを読み誤まっています。

5.アリサ「あなたらしいわ、そんな事気にして」
このアリサの台詞から始まる、短いカットのつなぎ。この短いカットつなぎは何を表現しようとしているのか?アリサ、もしくはジェットの感情を表現しようとしていたのは間違いありません。ただアリサの台詞にかぶせて、アリサの表情を色々な角度から写している以上、ここで表現されているのはジェットの感情だと思います。それではどういった感情なのか?

ジェットは「新しい水上都市では権利金なんかも高いし〜」と、アリサの考えに対し昔と同じように正論で返します。しかしアリサは「あなたらしいわ、そんな事気にして」と半ばあきれたように予想外の返答をしてきます。

この第10話でジェットは、リップ・ヴァン・ウィンクル(浦島太郎)なわけです。ジェットが知っているアリサは、ジェットが決めた事に従う、ジェットを頼り切っている(ように見えた)、アリサの台詞を借りれば「子供みたいに無邪気にジェットの腕につかまっているだけの女」だった訳です。しかしこの時ジェットが見たのは、ジェットが知っているアリサとは別のアリサだったのです。そう考えた時、この時の短いカットつなぎは、ジェットの浦島太郎的な気持ち、そしてその長い時間を埋める一瞬を表現しているのではないでしょうか。

6.ビバップ号の甲板で日焼けをするフェイ
どうでもいいようなおまけのシーン。しかしある程度、演出上の意味を持たせていると思われます。それは日焼けをするぐらい、アリサとジェットが長い時間話をしているという事です。

7.アリサ「動かない時間はいらないの」
この台詞と同時に、アリサは懐中時計をジェットに返します。この時を刻まなくなった時計は、アリサも言っているように「動かない時間」の象徴です。しかしここで一つの疑問がわいてきます。アリサがジェットの元を去る時、なぜ動いていた時計を渡したのでしょうか?

さよならの手紙と一緒に置かれていた、動いている懐中時計。この懐中時計にアリサが託した事とは「私はあなたとは別の時間を生きていく、あなたはあなたの時間を生きて下さい」という意味だと思います。しかしジェットはその意味に気づかず、時を刻むことをやめてしまった時計をいつまでも持ち続けます。そしてガニメデを出た時から時間が止まったままの、リップ・ヴァン・ウィンクルがアリサの前に戻ってきたというわけです。

この解釈に関しては、懐中時計が二人の思い出の何かなど、物語で語られない設定があった場合でも、ある程度は通用すると思います。

8.時を刻む水飲み機
ジェットとアリサの会話の途中に度々登場する水飲み機、表面的には二人が話をしている時間の長さを表しています。しかし本当の狙いとしては、時を刻まない時計(時が止まったままのジェット)と対比させる形で、アリサの周りの時間は動いている、という事を表現したかったのだと思います。

9.ジェットとアリサのアップ
逃げるアリサのアップ、そして追いかけるジェットのアップ。似たようなカットバックは第1話でも使われていました(厳密にいえばアップは使われていません)。そして、この後に迎えるアリサとカテリーナ(第1話の女)の違いが、第10話と第1話を対として作っているのではないか、と考えるきっかけになりました。しかし上記の通り、それは考え過ぎのようです。

★.スパイク「浪花節だぜ、まったく」
浪花節。今回この言葉が何度か登場してきます。はっきりとした意味は分からなくとも、なんとなく感覚的に意味は通じてしまいます。しかし深く考えた時、この浪花節はどういった意味で使われているのでしょうか?自分なりの考察を後述します。

またこの直前の、スパイク「逃がすつもりじゃないだろうな」という台詞。もし第10話と第1話が対になっていた場合、第1話の中盤でアシモフ達を見逃したように、スパイクがジェットの立場だった場合、逃がしていたのかもしれません。ただしつこいようですが、対にはなっていません。ジェットが昔の女に情が移って逃がすつもりか、とそのままの意味で単純に考えるのが正解だと思います。
 

浪花節とは何なのか?

浪花節とはいわゆる浪曲の事です。浪花節と言うか浪曲と言うかで、受ける印象は変わってくると思います。実際、僕も浪曲と聞いて連想する物のは、清水次郎長や国定忠治の物語です。しかし、浪花節と聞いて連想できる物は、具体的な物語ではなく、なんとなく男と女の義理人情話なんだろうなという事ぐらいです。そして今回登場する「浪花節」に、浪曲(もしくは本来の浪花節)の意味をそのまま当てはめると、かなりおかしげな事になってしまいます。

そう考えると「浪花節」には、演芸としての浪花節ではなく、形容動詞としての「浪花節的」という意味での使われ方もある事に気づきます。

本来の浪花節的とは、行動や考え方で義理人情を重んじている、といった意味です。しかし、ここで使われている意味(または一般的に使われる意味)というのは、より狭義の「浪花節」ではないでしょか。それは、悲恋や痴話話等町人の話をあつかった、いわゆる浪曲の中で「世話物」と言われる物語のイメージから来た「浪花節」です。また、演芸としての浪花節に触れる機会が少なくなった世代にとっては、悲恋物中心の演歌や歌謡曲のイメージとごちゃ混ぜになり、それが浪花節的物語のイメージになってしまった部分というのもあると思います。

なんとも僕のイメージと一般的なイメージがイコールであるような書き方をしてしまいましたが、第10話で繰り返し使われる、「浪花節」という言葉は、ジェットとアリサの関係がそういった悲恋物の歌謡曲的な話だという事だと思います。

ちなみにスパイクの「浪花節だぜ、まったく」という台詞、北米版では「Justice and duty, ah…」と言っています。また英語字幕では「Sense of Justice and duty, ah…」です。直訳すると「正義(感)と義務(感)」になりますが、ここは「(このシマのケリはジェットがつけなければならない)道理と務め」といった訳の方がしっくりくるかと思います。

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参照・引用(外部リンク)

Wikipedia - リップ・ヴァン・ウィンクルhttp://ja.wikipedia.org/wiki/リップ・ヴァン・ウィンクル
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「カウボーイビバップ」各話の考察