2014.12.16

「アイルランドの民話と意味は分かるが聞きなれない単語について」

カウボーイビバップ 第12話ジュピター・ジャズ(前編)

絵コンテ:岡村天斎 / 演出:武井良幸 / 脚本:信本敬子

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レッドアイの取引のためカリストへ向かうビシャス。その頃ビバップ号では、フェイが金庫の中身を持ち逃げしていた。スパイク達がフェイの行方を探していると「ジュリア」という名前にたどり着く。スパイクはジェットの制止を無視し、一人カリストへと向かう。

第12話の主要スタッフ。絵コンテ・岡村天斎。演出は武井良幸。脚本は信本敬子。作画監督・川元利浩。メカ作画監督・後藤雅巳。

以下は核心部分を含みます

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いきなりくしゃみの話です。

今回「三回くしゃみをして、お大事にって言われないと妖精になる」という台詞が出てきます。たしかアイルランドの伝承です。しかし詳細が思い出せない。仕方がないので古い本が入ったダンボールをひっくり返しました。出てきました、それらしい本が。

「ケルトの妖精」著:井村君江(外部リンク)

イギリスの伝承を集めた本です。そしてこの本に、クルーラホーンという妖精の話にあります。ざっくりストーリーを書きます。

アイルランドに飲んだくれの男がいました。そしてクルーラホーンという酒蔵に住み着く妖精に出会います。飲んだくれの男は酒欲しさにクルーラホーンの家来になり、色々と悪さをします。

ある時二人は村の結婚式に遭遇します。するとクルーラホーンが「あの花嫁をさらって結婚する」と言い出します。その時花嫁がくしゃみをします。しかし誰も「God bless you」と言わない。クルーラホーンは言います。「三回くしゃみをして誰からも『God bless you』と言われないと妖精になる。あの娘はその時に自分の花嫁になる」と。そして二回目のくしゃみ、やはり誰も気づきません。

結局三回目のくしゃみでも、誰も何も言わない。飲んだくれの男は、若い娘の事をかわいそうに思い「God bless you」と突然叫びます。するとクルーラホーンは怒り、そして消えました。飲んだくれの男は、その話を知った村人達に感謝され、浴びるほど酒を振る舞われました。

というお話です。飲んだくれの男が酒にありついてハッピーエンドとは、非常にアイルランドらしい話です。

またこの話で、妖精は「God bless you」という言葉を恐れています。なぜなのか?もともと妖精は土着の神様です。そこにキリスト教が入ってきて、昔からの神々は悪魔や堕天使のような扱いになりました。そこで妖精に悪さをされないために「神」のご加護、というような事だったと思います。(注意してもらいたいのは「God bless you」の語源の話ではありません)

<追記>
引用で「お大事に」を「God bless you」と(勝手に)翻訳しましたが、別の本で「God bless us」とルビを振っている物がありました。これに関しては、話の流れから「you」の方が正しいと思うのですが……(ただこれが「グリムが案内するケルトの妖精たちの世界(外部リンク)」という翻訳本でして、原書もきっと「us」になっていると思われます。もしかすると古典的言い回しなのかもしれません。)

< 第12話に関して >

今回も主人公はスパイクです。ストーリーに関しては、12話と13話をまとめてやらないと意味がないような気もしますが、30分枠での作品であるため、分けて考えます。そのため、考察のまとめを13話まで引っ張る部分が出てきます。

また、第二幕・第三幕への転換点を探していて気づいたのですが、各幕間が、今までの一話完結と比べ、かなり複雑になっています。もしかするとこの辺りは、前後半連結で考えたほうが正確なのかもしれません。

主人公

「スパイク・スピーゲル」

ストーリー

「ジュリアというコードネームを聞いたスパイクが、ジュリアを探しにタルシスに向うが撃たれる」

分岐点と概略

第一幕概略 「ビバップ号からフェイがいなくなる」
第二幕への転換点(6m30s) 「ジュリアというコードネームを聞く」
第二幕前半概略 「タルシスでジュリアを探す」
中間点(13m30s) 「コードネーム・ジュリアがビシャスと関わりがあると知る」
第二幕後半概略 「逃げたフェイの動向」
第三幕への転換点(20m30s) 「スパイクとビシャスが再会」
第三幕概略 「撃たれる」

第12話を分解

カウボーイビバップ 第12話 パラダイム

★.ビシャス「私がシュフを裏切るとでも」
そして、長老「マオは不運であった」と続きます。このやりとりが、ビシャスと長老達の関係を端的に物語っているのではないでしょうか。ビシャスが裏切らないと言った後に、長老はマオの話を持ち出します。しかし長老達は、あくまでもマオは事故で死んだと言っています。つまり長老たちはビシャスがマオを殺したと疑っているが、組織内でビシャスが一定の力を持っているため、強く出ることが出来ない。またビシャスも、長老達を倒せる確証がないために、表面上は長老達に従っているフリをしている、という事だと思われます。

そしてこの後、マン龍の「蛇は龍を食らうことは出来ない」という台詞があります。後に回収される台詞になるのですが、25話のクーデター失敗の際、ビシャス「蛇の毒は後からゆっくりと効く」と言っています。

ちなみにこの時のレッドアイの取引総額。グラム・30,000ウーロンで7,500グラム。総額で225,000,000ウーロンです。

またここで登場する「しゅふ」「ばんき」という言葉。話の流れから意味を取り違える事はありませんが、正確にはどういった意味、そしてどういった漢字になるのでしょうか。これに関しては後述いたします。

1.ジェット「ラジエーターから冷却材を抜いていきやがった」
本筋とは関係がありませんが、ラジエーターについて。車などに詳しい人はどんな物か知っていると思いますが、知らない人は違う物を想像している可能性があります。ラジエーター自体は機械を冷やす物ではなく、中に液体が通る蛇腹状の物体です。冷たい液体を通せば冷却、熱い液体を通せば加熱という使い方が出来ます。

最近ニュースで電気ストーブの火事がよく話題になっていますが、それとは違い火事になりにくいと言われるオイルヒーターは(たぶん)このラジエーターに分類されます。

2.ジェット「お前と組んで三年だがな〜」
この時スパイクは過去、ジェットは今を選択します。このテーマは最終話まで引っ張る形になりますが、10話で過去と決別したジェットは、ビバップ号を新しい居場所と考えていたのではないでしょうか。若干、擬似家族かどうかという話にもかぶってきますが、擬似家族論は先送りにします。

また10話・16話で、ジェットがISSPを辞めたのは七年前とありますので、スパイクと組むまでの四年間は、賞金稼ぎを一人でやっていたという事が分かります。

3.グレン「三回くしゃみをして〜妖精に」
上記。すでに解説をしましたが、アイルランドの伝承です。寒い土地で、不景気で、飲んだくれが登場。もしかするとブルークロウの街はアイルランドがモデルになっているのかもしれません。(あくまでもステレオタイプなイメージです)

4.スパイク「コードネーム・ジュリアか」
ロシア帽をかぶった男を倒した後の台詞。13話で、ジェット「例のコードネーム・ジュリアの男だぜ。グレンって野郎だ」とあるため、一応補足。「ジュリア」というコードネームはグレンの事なのか、取引自体の暗号なのか。ロシア帽の男が「〜情報が流れてる、グレンからビシャスへってな」、そして12話ラストでスパイクが「汚ねー取引に名前を使われちゃ〜」とあるので、「ジュリア」はこの取引自体の暗号がである事が分かります。

ここでいう「ジュリア」は、グレンにとって(13話で語られますが)ビシャスとの思い出の曲です。そう考えるとこのコードネームはグレンが考えた物だと思われます。またビシャスが「ジュリアはいた、この街に」と言っている事、そして「ジュリア」というコードネームが使われた事から考えると、ビシャスはグレンとジュリアが会っていた事を知っている思われます。これが何につながるかは、13話まで引っ張ります。

5.フェイ「ちょっと待っててねー、これやんないと爪が〜」
12話だけではないのですが、フェイがやたら強いという事に違和感を覚えます。そして寒くないのかという事も気になります。ちなみに外の気温は、初出時のブルークロウ実景に、気温の電光掲示板が写っています。それによると外の気温は0度です。

6.フェイ「人の中でひとりぼっちって感じるより、一人っきりで孤独を感じる方がマシ」
フェイは過去が思い出せないために、他人に中にあっても孤独だと感じていた。そして、その思い出せない記憶の中にこそ、本当の居場所があると思っていたのかもしれません。しかしそんなフェイに対して、グレン「離れるのが怖くなったんだね。その人たちと」と言います。

このグレンの言葉がフェイの気持ちを表していると思います。表面的な事を言えば、15話のウィットニーとの悲劇的な別れを指しているとも考えられますが、ここはそうではないと思います。先にも述べましたが、フェイは記憶を取り戻せば、自分の居場所が見つかると思っています。その本当の居場所が見つかった時、必ずビバップ号のメンバーとの別れが来る。そう考えた時に、新し思い出が出来る前に、ビバップ号を離れるという選択をしたのではないでしょうか。

7.壁の写真に目をやるフェイ
子供の頃の写真から入り、タイタンの戦いでの写真へと視線が移っていきます。そして写真の中にビシャスを見つけるのですが、このグレンとビシャスの写真。二人を引き裂くように一度破られていて、それをまたつなぎ合わせる形になっています。つなぎ合わせた写真を飾っている、グレンの気持ちはどういった物だったのでしょうか?それほど複雑な話ではないのですが、ここも13話に持ち越します。

余談です。ホンロートーと裏ドラの満貫で32000点にはなりません。32000点は子の役満です。

8.ビシャス「抜け駆けはお前の専門だったな」
このビシャスが言っている抜け駆けとは何を指しているのか?レッドドラゴン時代のカチコミで、スパイクがよく抜け駆けをしていたとも考えられるのですが、ここは素直にジュリアを巡っての事だと思われます。これに関しては13話でもう少し突っ込んで考察します。

9.スパイク「リン……」
このスパイクが撃たれた際の演出がかなり好きです。そして立ち去る時のビシャス。かつて仲間だったはずのスパイクに、憎悪とも思える表情を見せます。今回、ビシャスは何度も「信じる物など何もない」と言います。ここで若干の疑問。ビシャスは元から陰を帯びていて、こういった性格だったのか?それともスパイクに裏切られてこういう性格に変わったのか?なんとなく答えは出ているような気はしますが、ここも次の13話で掘り下げてみたいと思います。
 

「しゅふ」「ばんき」とは何なのか?

「しゅふ」と「ばんき」。「しゅふ」は長老達の事であり、「ばんき」とは従わなければならない物という意味で使われています。なんとなく意味は分かりますが、字面はどういった物になるのか?

まず「しゅふ」
これは素直に考えれば「主父」で間違いないと思います。ふと「主府(中央政府的な意味)」とも考えたのですが、26話でビシャスが「今から主父は交代した」と言っていますので、この「しゅふ」は人の地位を表しているという事で間違いないと思います。

主父といえば、胡服騎射で有名な武霊王が譲位した際に「主父」と名乗っています。引退した武霊王は、現王の父であるため「主父」となります。ちなみにキリスト教のヤハウェは「天父」です。ヤハウェは天にいる父(神様)という意味で「天父」となっています。似たような並びでも若干ニュアンスが変わります。そう考えた時、今回の「主父」はどうなるのか?特に深い何かはありませんが「指導者たる父」という意味だと思います。

またこの「主父」、正確な読みは「しゅほ」だと言う人もいますが、本によってまちまちです。「亜父」が「あほ」「あふ」と本によって違うような物です。

そして「ばんき」
これがかなりの難問です。すぐに思いつくのは「万旗」なのですが、これだと「万国・旗」の略語のようになってしまい、意味が分かりません。それでは「判規?」「万規?」、もちろんそんな言葉はありません。正直これはシナリオを頼るしか、答えは導けないような気がしました。

そんな時の北米版。またこれが更に頭を悩ませる事に。まず問題の所の字幕を抜き出してみます。

長老「Regardless of who it is, those who go against the Van’s will are punished.」
リン「That would go against the Van’s will.」

「against the Van’s will」ん?もしかしてヴァンとい人がいるのか?「ばんき」はヴァン氏の規範ということなのか?「Van」と頭が大文字になっているため、固有名詞かとも思いました。しかしこの単語、定冠詞「the」が付いています。また「Van」は「vanguard(指導者)」の略語でもあります。そう考えると「ヴァン氏」ではないような気がするのですが……

かなり頭を悩ませたこの問題、打開策もなく仕方がないので漢和辞典で「バン」と「キ」を端から調べてみました。すると簡単に見つかりました。「万機」です。実はこの単語、変換ですでに出ていたのですが、たくさんの機会という意味だと思いスルーしていました。しかし辞書には、

万機 / 万幾 (バンキ)

  • 万事の微妙なこと。またそれをつつしみいましめる。
  • 天子がとり行うよろずごと。天子の政務、政治。

とあります。まさに(2)の意味です。知らないのは僕だけだったのかもしれません。つまり、この「ばんき」漢字にした場合は「万機」となります。「主父」そして「万機」。つながったと思います。

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参照・引用(外部リンク)

『ケルトの妖精』 井村君江 著 / あんず堂 / 1996
『グリムが案内するケルトの妖精たちの世界〈下〉 』 Thomas Crofton Croker 著・藤川芳朗 訳 / 草思社 / 2001
『角川 新字源』 小川環樹・西田太一郎・赤塚忠 編 / 角川書店
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「カウボーイビバップ」各話の考察