2014.02.27

「欲望をオブラートに包み、他人の忠告に耳を貸さずに自爆する話です」

四畳半神話大系 第7話サークル ヒーローショー同好会

絵コンテ・演出:三原三千夫 / 脚本:上田誠・湯浅政明

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薔薇色のキャンパスライフを夢見る、大学三回生の『私』。入学時に一つにしぼるリスクを回避するため、三つのサークルをかけもちすることにする。その中の一つ、ヒーロー同好会で活動中に、ある男からボディーガードの依頼をされることになる。ボディーガードとして、香織さんとの同棲生活を続ける『私』。そんなある日、依頼主の男が香織さんを迎えに来るという。しかし『私』は同時に別の女性とも約束をしていた。

第7話の主要スタッフ。絵コンテ・演出・作画監督は三原三千夫。脚本は上田誠・湯浅政明。

以下は核心部分を含みます

3人の女性の中で揺れ動く『私』を通して、香織さんの事が描かれる第7話。前回なぜ香織さんと同棲をしていたかが明かされるが、香織さんはただの人形なので、人物描写がいままで以上に深まることはない。前半部分、次回への前振りとして、申し訳程度に明石さんが登場する。

< 第7話に関して >

この回は『私』が3人の女性の中から香織さんを選ぶという設定で、香織さんの人物象(というより『私』の偏った恋愛観)が描かれる。『私』・ジョニー・『私』の想像する香織さんの3人に役割を持たせて別々のキャラクターとして登場させている。そのため、主人公の内面だけを描いた動きのない退屈な画にならず、ともすれば下品になりやすい内容を、ギリギリのバランスで描いている。

第二幕後半概略の補足。順当に考えると「三人の女性の中で揺れ動く」とも思ったが、「香織さんが私の事を好きだと思い込む」とした。作品上読み取りにくいが、これが正解のはず。

分岐点と概略

第一幕概略 「ヒーローショー同行会に入った私が、」
第二幕への転換点(5m30s) 「香織さんのボディーガードを頼まれる」
第二幕前半概略 「香織さんに恋をする」
中間点(11m20s) 「香織さんを預かる事になる」
第二幕後半概略 「香織さんが私の事を好きだと思い込む」
第三幕への転換点(16m40s) 「香織さんとの駆け落ちを決断」
第三幕概略 「選択を間違ったと後悔する」

第7話を分解

四畳半神話大系 第7話 パラダイム

★.おきにいり / 3m40s (後述・クリックで移動)
「誰も倒さず誰も傷つけず、いつの間にかもめごとしずめ」と歌にもあるもちぐまん。悪い奴らをやっつけるのではなく改心させる、今まで語られなかったキャラクターがここで紹介される。

1.私「結構本気でこづきやがって。ワンステ3000円なのに」
初見時に若干首をかしげたこの台詞。その前に司会のお姉さんが、緊張感がない台詞回しで「あらら、どうしたの」と言っていたので、このナンパ男達は仕込み?と勘違いしてしまった。その後に続く上記の台詞もあり、ナンパ男達を追い払うまでが、ワンステージで3000円のバイトと思えてしまう。

実際はその『私』の行動を見て城ヶ崎がボディーガードを頼んだ事、次話で明石さんに、私「あれは着ぐるみを着ていたから出来たのであって」と説明している事を考えると、仕込みではなく実際にナンパされていた状況で間違いはない。

2.ジョニー「どうだっていいんじゃね」
意味合いとしては、『私』が「地獄の釜が開こうとも相手にあってはならない〜」と考えている以上、理想の女性だろうが、手紙になんと書こうが、ジョニーにとってみればどうでもいいという事だろう。この後、興味を示す対象がいなかったジョニーの前に香織さんが現れる。目の前にいる香織さんに興味を示し、ジョニーは徐々に暴走していく。わざわざこのなくてもよい台詞を残したという事は、『私』が女性と接する際の潜在意識の中には、いつもジョニーがいるという事を意図的に表したかったのだろうか。

3.私「今すぐ黙れ!未来永劫黙れ!」
ここ小津とのやりとりはかなり好きです。なんだかんだ言っても『私』と小津は、腐れ縁の友人だというのが、短いやりとりの中で上手に表現されている。

ここでの小津なのだが、『私』を馬鹿にするために香織さんの話をしているのではない。今までの小津の設定で惑わされがちだが、『私』が香織さんを選んでしまった場合の結果が分かっており、そうならないように『私』に忠告をしているのである。後半、城ヶ崎に電話をするシーンをみて、そう解釈した。

また、小津「〜香織さんのボディーガード料でしょう」と言われ、『私』がジュースをゆっくりと吹き出す演出。あまり見かけない演出(ありがちなのは、ぶっと勢いよく吹き出す演出)で、思わず「へ〜」と声が出てしまった。

4.城ヶ崎「俺の下宿は何かと物騒だ」
今回初めてこの台詞に気づく。疑問に思っていた城ヶ崎の家は下宿だったのですね。なんか釈然としないものがありますが、下宿と自分で言っているので、下宿なのでしょう。

5.城ヶ崎「おい、ラーメン食っただろう」
『私』は香織さんと猫ラーメンを食べる。実際は『私』の夢なのだが、上記の台詞で、若干こんがらがってってしまった。解釈としては、猫ラーメンを食べる夢を見たため、ラーメンを食べたくなり、部屋で食べたということだろう。

またこの香織さんと「猫ラーメン」を食べに行くという夢。明石さんを連れて行くと約束をしたのは第1話。しかし、今回の話では明石さんが大きく関わってくることはないので、なぜ『私』が「猫ラーメン」の夢を見るのかも分かりづらい。描かれていない部分で明石さんとの会話があって、それが夢の中で香織さんに入れ替わってしまった。そうとも考えられるが、『私』にとっては「縁結びの下鴨神社」の境内に現れる「猫ラーメン」という屋台に、恋愛の象徴的な思い入れ(思い込み)がある、と考える方が自然ではないだろうか。(ただ猫ラーメンが好きなだけかもしれないが……)

6.床に転がる香水
かなり分かりづらいインサート。城ヶ崎が香織さんの膝の上に、プレゼントの香水を置くのを『私』が見る。そして城ヶ崎が去り、床を見ると先ほどの香水が転がっている。この時『私』は、実は香織さんが城ヶ崎の事を嫌がっているのでは、と思ったのではないか。それがあり、この後(16:30)の「再び城ヶ崎に愛でられれば、違う草木になりましょう」という香織さんの台詞につながる。この解釈があっているなら、城ヶ崎が去った後に、香織さんの膝から香水が転げ落ちる(香織さんが香水を投げ捨てるように見える)表現の方が親切だったのではないか。

7.小津「あー、城ヶ崎さん」
『私』の部屋で、香織さん(私)の書き置きを見つけ、小津は城ヶ崎に電話をする。一瞬なので初見時は気づかなかったが、振り向いた小津の顔が人間の顔になっている。この時の小津は、道を踏み外しそうになった『私』を助けようとしたのではないか。城ヶ崎への連絡は、忠告を聞かずに道を踏み外してしまった『私』を、城ヶ崎に止めてもらうという意味もあったはず。

さらに補足すると、第11話の『私』は小津と小日向さんの仲を半ば公認するような態度(相島の手が及んでいることを知らせようとする)を取っていると言うことは、その逆、(第1話にもあったように)小津は本気で『私』と明石さんを結ばせようとしているのではないか。『私』から小日向さんを取ったような形になってしまった事を考えると、小津がそのような気持ちになっていても不思議ではない。

8.私「これを好機と言わずしてなんと言おうか」
今回もお約束の占い婆が登場する。しかし今回はいつもと違い、香織さんにキスをしようとしている『私』を止めるようなタイミングで登場する。そして「好機はいつでもあなたの目の前にぶら下がっております。それをつかまえてごらんなさい」とつぶやく。暗に結ばれるべきは香織さんではなく別の人だと告げている。しかし目の前にいる香織さんに心を奪われ、上記のような考えにいたってしまう。

9.城ヶ崎「チェストー!」
鹿児島弁。「いけー」みたいな意味だったと思う。この言葉から推測すると、城ヶ崎は鹿児島出身という設定なのだろう。この言葉、記憶が正しければ山崎豊子さんの「二つの祖国」で出てきたはず。その時に知ったと思うのだが、もし記憶違いであったら、この言葉をどこで知ったのかは不明。

10.私「私はきっと香織さんを清らかに愛しきれない」
城ヶ崎に蹴り飛ばされ、正気に戻った『私』が発した台詞。結局この回の『私』は、どんなに言葉を飾ろうとも、香織さんを人形としてしか見ることが出来なかったのであろう。

そして最後のカット、橋の上には小津の姿。この時の小津はいつもの悪魔の顔に戻っている。

子供達「改心しろ!改心しろ!改心しろ!」

お姉さんが「悪い奴ら」「改心させよう」と火をつけて、訳の分かっていない人たちが「改心しろ」と晒し上げる。この台詞、宗教のように思えたが、どちらかといえばネット炎上の図式とも思えた。また子供達の狂気じみた感じがいいですね。この台詞は第8話でも登場するのだが、初出のここでおきにいりにしました。それにしても明石さんは、こんな「もちぐまん」のどこに惹かれたのであろうか。

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「四畳半神話大系」各話の考察

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