2013.06.03

「理路整然と胡散臭い話をする会長の無駄に高いリアリティは何?」

四畳半神話大系 第5話ソフトボールサークル ほんわか

絵コンテ:浜崎博嗣 / 演出:高橋知也 / 脚本:上田誠・湯浅政明

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薔薇色のキャンパスライフを夢見る、大学三回生の『私』。入学時にソフトボールサークルに入るが、ほんわかし過ぎている雰囲気に溶け込めず、我慢も限界に達していた。そこに現れた黒髪の乙女。『私』は再び彼女に会うために、不毛な努力を始める。

第5話の主要スタッフ。絵コンテは浜崎博嗣。演出は高橋知也。脚本は上田誠・湯浅政明。作画監督は石浜真史。

以下は核心部分を含みます

小津のキャラクタを肉付けするために、小日向さんという人物が『ほんわか』という団体と共に描かれる第5話。この話を見てふと思い出した事がある。四畳半神話大系のまとめの所でも少し触れたが、昔、僕も2つの団体に勧誘されたことがあった。一つは『アムウェイ』。そしてもう一つは日蓮宗系の新興宗教(名前が思い出せない、創価学会ではないです)。

ここからどうでもいい個人的な思い出話が長々と続きます。
クリックでどうでもいい話を飛ばして、本題に移動します

まず『アムウェイ』の話。今の仕事をするずっと前、東京都の昭島市でアルバイトをしていた時。同じバイト仲間に今度パーティをするから来ないかと誘われる。会費もなくタダで飲み食いできるという話で、ひもじい暮らしをしていた僕は食い物につられて足を運ぶことにした。

会場はうる覚えだが武蔵小金井。結構大がかりなパーティで20人ぐらいの人が集まっていた。まず最初に名刺の交換があり、その後待ちに待った食事会。主催者が圧力鍋で水無しカレーを作り、参加者に振る舞う。当日何も食べずに行ったので、すごく美味しかったのを覚えている。そしてその後、これまた主催者が作ってくれたプリン……参加者が「すごい美味しいね」と口々に言っていたので、僕も「美味しいですね」と合わせたが、ムラがありすぎて若干不味いかった。まあタダだからしょうがない。

そして宴もたけなわになり帰ろうと思ったとき、主催者が突然、今日使った商品の説明を始めた。タダ飯も悪いと思い、とりあえず説明を聞くことにするのだが、その商品の金額にかなり驚いた。カレーを作った圧力鍋が10万円もするらしい。誘ってくれたバイト先の人に「買わない?」と言われたが、いやいや圧力鍋に10万とは無茶な話だ(4話の束子に10万よりはいいとは思うが)。周りの参加者が「絶対いいよ」などと根拠のない意味不明な事をいいだし、主催者も「少々高いが物はいい」等とだめ押しをしてくる。いやいや良い悪いの問題ではなく高くないですか?だってこれ、ただの圧力鍋ですよね。その後次々と商品を紹介してくれるが、僕が何も買わなかったため、場の空気が悪くなってしまう。気まずくなった僕はフォローの意味を込め「今日はすごく楽しかったです。カレーもすごく美味しくて感動しました」と言ったら、周りの人にすごく睨まれたのを覚えている。その後、誰も僕と口をきいてくれなくなり、一人寂しく家に帰った。そんな大昔の夏の思い出話でした。

そして2つめ『新興宗教』の話。これも同じく別のアルバイトをしていた頃の話。同じようにご飯をおごってやると、バイト先の先輩に誘われて、ノコノコと僕はついて行く。飯と言われたのに、連れて行かれたのは、新宿靖国通りのミスド。注文をして2階に上ると、そこにはなぜか50代ぐらいのおじさん。挨拶をする先輩。僕らが席に座ると、おじさんがおもむろに一冊のパンフレットを取り出す。パンフレットには日蓮宗なんとか会(残念ながら本当に思い出せない)の文字。その時僕は「飯じゃないのか……」と大きく落胆してしまう。

何を話していいか分からず、じっとパンフレットを見ていると、おじさんが「日蓮系の宗教と聞くと創価学会と思うかもしれないけど、私たちは違う」と言ってくる。そんな事を思いもしなかったが、その言葉を聞き、もしかして創価学会系の下部組織?など考え込んでいると、突然おじさんが語気を荒げ「むしろ我々は創価学会と戦っているんだ!」と叫び出す。僕は思わず「はぁ?」と心の声が口に出てしまった。当然ではないか。ご飯を食べに来ただけなのに、なぜ宗教戦争に巻き込まれなければならないのか?おじさんはなおも続ける。日蓮がいかに偉大か、そして創価学会は日蓮に背くいかに駄目な宗教か、とうとうと力説してくる。そう、まるで念仏を唱えるかのごとく。

たぶん一時間ぐらい話を聞いた頃だったと思う。一人で演説をぶっていたおじさんが突然、僕に質問をしてくる。「元寇って知ってる?」。知ってるに決まってる、これでも一応中学校は卒業してるんだ。うなずく僕におじさんは質問を続ける。「じゃあ何で起きたか知ってる?」正直詳しくは知らないので、北条時宗が使者を殺してとか、フビライが日本に興味を持っていてなど、必死で馬鹿じゃないフリをした。おじさんは「違うよ」と首を横に振り、答えを教えてくれる。「幕府が日蓮上人を迫害したから天罰が下ったんだよ」……そうらしいです。天罰で元が攻めてきたらしいです。僕はまた一つ賢くなった、世の中には色んな人がいるんだなーと言う意味で。そんなこと思いつつ新宿を後にした。そんな二つめの思い出話でした。

< 第5話に関して >

主人公はもちろん『私』です。第1話で名前のみの登場だった、小日向さんが登場。しかし顔も分からず声を発する事もない。この後の6〜8話は同じ話のループになるので、今までの謎を、ある程度ここで回収している。しかしこの5話にも、小日向さん・箱船の強奪・『ほんわか』でない連中など、後に明かされる大きな伏線が隠されている。

分岐点と概略

第一幕概略 「ソフトボールサークルに入った私が、」
第二幕への転換点(7m00s) 「小日向さんに出会う」
第二幕前半概略 「健康食品を買いまくる」
中間点(12m00s) 「全国会合に招待される」
第二幕後半概略 「ほんわかの正体に気づく」
第三幕への転換点(17m30s) 「小津とほんわかを脱出する」
第三幕概略 「2年の歳月を棒に振ったと後悔する」

第5話を分解

四畳半神話大系 第5話 パラダイム

1.タイトル「ソフトボールサークル ほんわか」
この『ソフトボールサークル ほんわか』は『健康食品会社 ほんわか』の下部組織という設定。この二つの『ほんわか』ロゴが違う。サークルは笑顔のハチが、健康食品会社は六角形のハチの巣がロゴマークになっている。つまりサークルは金という蜜を集めるハチ(メンバーはハチのマークを胸に付け、頭には触覚を付けている)であり、健康食品会社はその蜜を集め蓄えるハチの巣という事なのだろう。

2.小津「彼女と普通に会うには、それ相応の立場にならないと難しいらしいです」
猫ラーメンで食事をしながら『私』と小津の会話。そしてその後、小津「それでも貴方が恋路に走るというのなら、私は止めませんが」と続ける。小津と小日向さんの関係を知ってから見ると、この小津のすっとぼけた態度は若干理不尽に感じる。小津らしいと言えば小津らしいが……しかし結局は小津が止めたとしても『私』は忠告も聞かず、健康食品を買いあさってしまうのは、想像に難くない。

3.私「健康食品のおかげで私の生活態度はどんどん不健康になっていった」
健康食品が先か健康が先かという、卵と鶏のような台詞。非常に演劇的だと感じたが、この作品の魅力はこういった台詞が本当に良く出来ている事だと思う。そしてこの後に出てきた賞状。ホップ・ステップ・ジャンプ・ウィンをまでは分かったが、『ホーラー』と『プライター』は何だろう?honorとprimary(pride?)をもじった言葉?

★.おきにいり / 14m20s (後述・クリックで移動)
冒頭で下らない思い出話を書いてしまいましたが、この会長の台詞が無駄にリアルなんですよね。こういうセミナーの本部大会とかに参加すると、こんな感じなんだろうなと思わせる力がある。あと「頑張りましょー!」が、法の華三法行の「最高ですか!」を連想させた。

4.幹部「僕の仲間はみんな成功している。なぜだと思う?魂をあらわにしてるからさ」
胸に『PEACE』と書いてある『ほんわか』のTシャツを着ている幹部。後ろのホワイトボードには『人になる』の文字。『人になる』って、今はまだ人ではないのかよ。自己啓発セミナーなどには参加したことはないが、宗教色がないだけで実際はこんな感じなのではないかと想像してしまう。このシーン、壁から怪しげな紫の煙が出てきているが、『私』がなんともない事を考えると、お香か何かだと思う。決して幻覚剤的な何かではない、と信じたい。

5.小津「逃げるんでしょ。お供しまっせ」
箱船の強奪事件後、小津は『私』を助けにやってくる。初回鑑賞時は、純粋に小津が『私』助けるために来たと読める。しかし、その理由が分からないためご都合主義的に小津が現れた(面白いからそれでもいいのだが)としか思えない。しかし、小津の行動背景を知ると、なぜ『ほんわか』に小津が現れたのかがすっきりする。そしてこの時、一人で逃げることも出来たはずなのに、危険を冒してまで助けに来てくれた事を考えれば、やはり小津は『私』にとっての親友なのであろう。

6.私/N「なにやらほんわかでない連中も〜」
この時、出てくるのが『ほんわか』『福猫飯店』『図書館警察』『自転車整理軍』、そして再び『ほんわか』となる。この時よく見ると、福猫飯店の幹部が胸に『黒猫』のマークを付けており、第9話のロゴと異なる。そして、ここでも相島先輩が一瞬登場する。あまりにも一瞬すぎて気づかなかったが、腕には図書館警察の腕章をしている。

そして、このあと小津が女装する事で、第1話の橋の欄干に追い詰められるシーンにつながる事が分かる。福猫飯店の存在がまだ分からない初回鑑賞時でも、相島は城ヶ崎先輩右腕という設定なので、これで小津を追い詰めた面々がつながったように思えてしまう。しかし箱船強奪、ほんわかでない連中など、ここも後の展開への前振りになっている。

7.樋口「貴君のことも身を挺してかばうと〜」
この台詞が今後、大きな意味を持ってくる。この台詞、小津が直接言った方が良かったのではと一瞬思ったが、それでは今後の小津に対する見方がかなり変わってしまう。そこで、樋口師匠の口を通して、嘘とも本当ともいえない形で『私』へ伝えている。意図しているのかどうかは分からないが、良く出来ている。

8.私「信じないったら信じない!」
窓の外からヒゲを生やした謎の人物がやってくる。初回鑑賞時は追ってきた『ほんわか』のメンバーかと思った。しかしその正体が何者かは、後に明かされることとなる。ちなみにこのシーンで外の『私』はリックを背負っている。しかし第10話では、代理戦争の資金とリックを置いてくるシーンが先にあり、『ほんわか』に入った『私』に遭遇したときに、リックは背負ってはいない。

会長「最後まで頑張れた者は、必ずや魂の故郷フレアデスへと帰還出来ます」

立て板に水を流すように喋りながらも、醸し出される胡散臭さ。台詞回しでいえば、会長「いや違うんです、と私は答える」がかなり好きです。そして思った。なんだろう、このアニメとは思えない声。なんか舞台っぽい。CVは諏訪雅さん。思った通りヨーロッパ企画の役者さんです。失礼ながら声はキレイじゃないのに、すごくキャラが立っていていいですよね。この作品は本当に上手い具合に、ヨーロッパ企画の役者さんを使っていると思う。

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「四畳半神話大系」各話の考察

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